第27話

そして、つらつらと話し出す彼女の事を少し聞いた。

割と彼女の心情とか、そういった物が含まれていたけれど、それはつまるところ寂しさで。

話しそのものを要約してしまえば、理解の得られない、得られにくい趣味だけど、続けたい。

そしてこの環境は手放したくない。だから申し出は嬉しいし、受けてしまいたい。

ただ、迷惑にならないか心配。

先ほどからの彼女とのやり取りで、何度となく覗かせていた、そういったものでしかなかった。

しかというと、ひどいかもしれないけど。

それを、僕はただ何を言うでもなく、彼女の独白として、ギターの練習を続けながら聞く。

彼女にしてみれば、聞き流していると、ひょっとしたらそう取ってしまう態度かもしれないけど、まぁ、そうならそうで、彼女としても少しは気楽に話せるかな、そんなことを考えながら。


「部活も、幽霊部員ばっかりで、顧問の先生も、基本的に諦めているから。

 観測用の道具も、学校にあるのは古くて、何とか使える、そんなのばっかりだし。

 だから、全部自分で揃えたんだけど、それだけやろうと、そう思っているのは私だけで。」


彼女の話は、徐々にそれだし、祖父母の申し入れに対してから、彼女自身に変わってき始めた。

ただ、それを指摘するでもなく、僕はそれを聞く。


「別に、将来何かの役に立てたいとか、そんなことは考えてないんだけどね。

 私は、これがたのしくて、だからやってるだけなのに。」


そういって、彼女は未だに置かれている望遠鏡に目をやる。

彼女も、回りに何か色々言われてきたのかもしれないな、その仕草にそんなことを思ってしまう。


「迷惑をかけるつもりは、実際かけてしまってるけど、そんなつもりは本当に無いんだけどな。

 ただ、星を見たいんだ。不思議で、綺麗で。本当に楽しくて。」

「そっか。」


そこまで聞いて、僕は初めて彼女に返事をする。

聞き流している、そう思っていたのかもしれない。

驚いたように顔をあげる彼女の、瞳が少し滲んだ光を返している。


「いいんじゃない。来れば。僕は、歓迎するよ。」

「えっと、なんで。」

「僕もね、逃げてきたんだ。」


そう、始まりは疲れたから、逃げたくて。休めるところを探して。そこで思いついた。そんな場所。

大事な場所。最初は異物、彼女に来てほしくないと、そう思うほどには。

でも、仲間なら、良いかなと。そんなことを思う。


「子供のころ、うん、5年くらい前だけどね。」


そうして彼女に僕の話をする。

ギターを置いて、まだ潤んだ瞳で僕を見返す彼女に。


「なんだか、疲れちゃってさ。本当に急だったんだ。両親にも、誰にも言わずにここに来たんだ。」


でも、祖父母は受け入れてくれた。

それが当たり前だというように、何も言わずに。

いや、勿論、面倒はかけたと、大人としての責任、両親への連絡だとかは、きちんとしてくれたわけだけど。

それでも、今に至るまで、僕が何でふらりと来るのか、そんなことを聞いたりもしない。

来たら来た、来ないなら来ない、その理由も聞かずに、ただ駄目なことは駄目とだけ、それ以外はそうかと、受け入れてくれる。


「うん、だからさ。ここが探してる場所だと思ったんなら、また来ればいいよ。」

「なに、それ。」

「よくわからないけど、僕だって僕の事もよく分からないけど、君にとって、それが大事って言うのは分かるからさ。それは、大事にしようよ。ダメだって、そう言ってる人はいないから。」

「でも、君の。」

「ダメって言ってないよ、何度も言うけど。不安があるから、それをどうにかしてくれって、それだけ。

 ここに来たいけど、こっち迄来たくないなら、それでいいと思うよ。」

「でも。」

「携帯、持ってるなら、来る時に連絡して、帰るときに連絡して。

 それで、無事だって伝えるくらいで、それくらいでもいいんじゃないかな。」

「迷惑、じゃないのかな。本当に。」

「だったら、来るなって、そう言うと思うよ。祖父母、そのあたり遠慮するとも思わないし。」

「聞いてる限りだと、すごく優しそうだけど。」

「駄目なことは駄目だって、ちゃんと言うよ。」

「そっか。」


そういって彼女がまた俯く。

僕は、どうしたいんだろう。

彼女の話を聞いて、誘ってしまった。

共犯意識と言えばいいのか、ここが特別な場所だと、そんな気持ちを共有できる相手が見つかったことが、やっぱりうれしいのかもしれない。

だって、忙しい両親は、あまりここに来ることはないのだ。

生きるため。僕のため。仕方ないと、それくらいは分かるようになったけど、それでも、ここが大事だと、そう思っているのが僕だけだというのは、少し悲しい。

両親が、祖父母に一緒に暮らさないかと、そんな話をしたときのあの感情を、どうしても思い出してしまう。


「君は、その、本当にいいの。」

「うん。キミならいいかなって、僕は話を聞いてそう思ったよ。」

「本当に。」

「繰り返しになるけど、そうじゃなかったら、祖父母からそんな話が合った事を黙っていたよ。

 だって、それだけでキミはそんな事が有った、それも分からないんだから。」

「そっか、そうだよね。」


そうして彼女と、何となく笑いあう。

お互いにそれなりにらしい格好で、山奥には似合わない。

それでも、こんなところでたまたまあって、こうして話している。どこか似た、そんな感情を抱えて。

僕も、それがおかしくて、嬉しくて。

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