第25話

そうして彼女と話しながらも、今日の夜食は何だろうかとふたを開けると、そこには昨日と違って箸に取り皿、それから二段に重ねられた容器。

蓋を開けると、夕食にと口にしたものの残りに少し手を加えたと分かるものと、他にもいくつかの総菜が並び、他方には俵型のお結びが並んでいる。

昨日よりも大きいなとか、そんなことを考えていたが、夕食の量が減ったことと、聞かれるままに彼女の柚須について話したからか、ちょっとお腹が空いた時に、そうとは言えないほどにきちんとした食事が入っていた。

母も子供のころ、こうしてここに来た時に、こうやって食べたのかな、そんな事を僕はふと考えてしまう。


「わ、今日は凄いね。その、後で、明日ちゃんと手紙を書くね。」

「うん。分かった。さ、食べよっか。」

「その、申し訳ないけど、ありがとう、頂きます。」

「もしかして、やっぱり今日も。」

「えっと、うん。栄養補助食品だけ。」

「よく持つね。」

「いいダイエット、そう考えることにしてる。」


そうして僕が彼女に皿と箸を渡せば、彼女は僕より先に手を付けるのはと、そう考えているのだろう。こちらの様子を伺っているのが分かるため、僕も手早く自分の皿に盛りつけて、手を合わせる。

それから口にすると、夜ご飯をそれなりに食べたとは思っていたけれど、足りていなかったのだろう。

一度飲み込んでみれば、改めて自分がお腹が空いていたことに気が付く。


「美味しいね。」

「うん。」


こちらが食べれば、早速とばかりに彼女も手を付けて口にすると、そんなことを伝えられる。

味付けに関しては、普段家で食べる物に似ているけど、やっぱりどこか違う味で。

こっちはこっちで既におなじみになっているけれど、それでも美味しいとそう思える。

そして、それを人に褒められるのは、やっぱりどこか嬉しいものだ。


「今日はお腹空いてたし、うん、いつもより美味しく感じるかも。」

「そうなんだ。でも、なんで。」

「今日もこうなるかなって、だから晩御飯は少なめに。」

「それは、えっと、ごめんね。」

「いいよ。なんだかんだで、楽しいから。」

「そっか、それならよかった。」


そうしてお互いにあれこれと箸を勧めながら、話をする。


「えっと、これ、何だろう。」

「確か、フキって言ってた気がする。」

「へー。初めて見る。」

「僕は好きだよ。えっと、春が旬だとか。」

「あ、そうなんだ。うん、美味しい。」


容器に入った食べ物について少し話をしたり。


「ここだと、回りの木が邪魔になったりしないの。」

「流石にこれ以上を望むのは。それこそもっと北の方に行って、人の生活から離れた平地、みたいな場所を探さなきゃいけないし。」

「ああ、うん。それは、難しいね。」

「ここにしても、こうしてぽっかり空いてるから、見つけた時、すごく嬉しかったんだ。」

「どうやって、見つけたの。」

「えっとね、私でも行けそうな場所で、地図を見てたら、ここをたまたま見つけてね。」

「すごい偶然だね。」

「うん。それにホテルなんかもないから、もうすんでない家を貸してくれる人がいなきゃ、もっと大変だったかも。」


お互い、まだ車の免許なんて持てるような年齢でもないし、原付では流石に彼女の持っている荷物をすべて積み込むのも難しいだろう。

そんな状況で、本当になんの偶然か、ここまで都合のいい場所が見つかって、彼女は本当に喜んだのだろうな、そんなことを改めて感じる。


「そういえば、前ノートに書いた時に、ごめんねちょっと見ちゃったんだけど、間違ってるところあったよ。」

「え。」

「英語の訳だけど。」


そうして、少し見ただけだというのに、よく覚えていた彼女からそっと間違いを指摘されてみたりと、話は色々と弾んだ。

そうして、流石にもう十分と箸をおくと、彼女は不思議そうにこちらを見る。


「えっと、もういいの。」

「うん、流石にお腹いっぱい。」

「そっか、小食なんだね。羨ましいかも。」

「一応、晩御飯も食べて来てるから。」

「そっか、そうだよね。」


そんな風に応えてはいるが、確かに僕はあまりたくさん食べるほうではない。

どうにも、直ぐにお腹がいっぱいになってしまうし、まぁ、食べなくても今のところ体に特別問題は無いからと、良しとされてはいる。

ただ、やはり運動するからだろうか。

祖父母の家に来るようになってからは、昔よりも少し食事量が増えたのは確かだけど。


「そっちは、うん、普通くらいかな。」

「えっと、よく食べるほうかな。」

「あ、そうなんだ。良い事だよね。」

「太っちゃうから、気にしてるんだけど。」

「美味しそうに一杯食べたほうが、作ってくれる人は嬉しそうだけど。」

「そうかもしれないけど。」


そんな話をして、僕は先にシートから降りるために、靴を履き始める。

そのため、また背中越しに話を続けることになる。


「その、本当にありがとう。自分でもきちんと手紙を書くけど、ちゃんと伝えておいてほしいな。」

「うん、わかったよ。」

「色々貰って、厚かましいって、そう思われるかもしれないけど、ここを見つけられて本当に良かった、そう思ってるんだ。」

「まぁ、偶然に感謝するしかないよね。」

「本当に。運がよかったのかなって、本当にそう思う。」


そして彼女はでもねと、そう続ける。


「だからこそ、これ以上はって、そんなことも考えちゃうよ。」

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