第24話

「とりあえず、食べよっか。」


考え込み、戸惑う彼女を放っておいて、いつも通りに敷かれているシートに乗るためにと端の方に座り靴を脱ぐ。

そうすると、さっきまで向かい合って話していたこともあって、彼女に対して背を向けることになる。そんなタイミングで話しかけられる。


「その、君の祖父母はどうして、そこまでしてくれるの。」

「分からないよ。」

「え。」


そういったきり、彼女の方は言葉が続かない様子だ。

振り返って話したほうが良いのだろうかとも考えてしまうが、こちらが背を向けたときに話しかけてきたのだからと、そのまま言葉を続ける。


「心配だからって言うのはあると思うけど、それ以上は分からないかな。」

「聞いたりしなかったの。」

「誘うか、誘わないかも、僕の好きにって言われてたから。」

「そう、なんだ。」

「僕は祖父母じゃないから、二人がなにを考えているかなんてわからないよ。

 気になるなら、聞いて来てもいいし、それこそ昨日みたいに何かに書いてくれれば、届けるよ。」

「君は、嫌じゃないの。」

「最初は嫌だったかな。」


そう、ここに来るまで、彼女に伝えるまで、足取りが重かったのは、それが嫌だったから、そこに間違いはない。

伝えてしまえば、振り返らなくても、相手が少し緊張するのが分かる。

それはそうだろう、僕だって面と向かって一緒にいるのが嫌だと言われれば、それなりの反応をするのだから。


「でも。」


そう、でも。


「ここで、さっきまで話して、うん、まぁ、いいかなって。」

「そう、なんだ。」

「話さずに帰っても、多分、というかそれも含めて好きにしたらって言われてたから、それでも良かったかもしれないけどね。うん、こうしてキミは今悩んでるみたいだし。」

「えっと、それでも私を誘うって、期待はされてたんじゃないかな。」

「多分ね。うん、僕が誘うって分かってたとは思うよ。いやいやでも。」

「あの、君が嫌だったら、ちゃんと断るよ。

 だって、せっかくの休みに来てるんでしょ。気が休まらないんじゃないかな。」

「それを含めて、まぁ、いいかなって。それに祖父母は心配するだろうからね、君が来なかったら。」


すっかり靴は脱いでしまったけど、そのまま振り返らずに話を続ける。

靴下くらいは履いてるけど、やっぱりまだ外の風は足元を冷やしてくる。


「うん、だから、まぁ、任せるよ。僕は君がいてもいいかなって、そう思ったし。

 後は君が来てもいいかなって、そう思ったなら来ればいいんじゃないかな。」

「でも、色々してもらって、悪いなって。」

「そう思うのは君だし、祖父母は気にしないから誘ったんだと思うから。」

「そう、なのかな。」

「多分。そのあたり、一度聞いてこようか。」

「えっと、うん、あの、手紙を、書きます。」


なにやら彼女の中で決まったのだと、ようやく僕は体の向きを入れ替える。


「ノートは持ってきてないから、どうしよっか。」

「私も、自分のがあるから。」

「そう。なら、先に食べよっか。」


昨日と違って、今日は祖母に食べ物を渡されると、そう分かっていたから夕食も少し少なめにしてきた。

今朝のご飯は、流石にいつもより遅い時間に追加で食べてしまったせいか、なかなか箸が進まなかったから。

いや、それはいいわけで、本当は彼女の事が有ったから、それに気を取られてしまって、ほとんど食べられなかっただけなのだが。


「うん。そうだね。キミは、その、自由だね。」

「そんなことないよ。君に話すまで、僕がそうやって今日一日悩んでいたわけだし。」

「ああ、そっか、そうだよね。じゃあ、ごめんなさい、かな。」


そういって頭を下げる彼女に僕も頭を下げる。


「うん、気にしないでよ、こっちこそ、ごめんね。なんだか面倒を押し付けたみたいで。」

「面倒、っていう訳じゃないかな、戸惑っているとか、その、心配かけてしまって申し訳ないとか、色々。」

「そう色々を全部まとめて、面倒でいいんじゃないかな。」

「それは、流石に乱暴かなって。」


そういって、彼女もどうにか先ほどまでと同じような表情に戻って、僕の向かいに座る。

スカートの裾を揃えて綺麗に座る姿は、なんというか、慣れを感じさせる。

部活でと、そうとだけ聞いているけれど、今の学校に入る前から、彼女はよく一人で、それとも彼女に楽しさを教える相手と、こうしていたのかもしれない。


「えっと、手紙書くの時間かかるかもしれないけど。」

「良いんじゃないかな。今日が無理なら明日でも。祖父か、祖母か、多分両方かも。二人から返事貰って、また渡すよ。」

「えっと、今日待ってもらってる間に書けそうになかったら、そうしてもらうかも。」

「うん。僕もこれ食べて、また一時間くらい練習したら戻るし。」

「あ、そこは、そうなんだ。」

「あんまり遅くなると、朝起きれなくなりそうだからね。」

「わ、えらいね。私は連休中は、だいたい逆転しちゃうから。」


偉いねと言われるが、彼女が連休の間、こうした趣味に時間を割いているなら、それはもうどうにもならないだろう。

そもそも夜に活動しなければ、天体観測などできやしないのだから。


「昼間って、何かできるの。」

「一応、研究資料を読んだり、図鑑を見たり、太陽の観測も立派な天体観測だから。」

「え、目を傷めるんじゃないの。」

「えっと、流石に今日は流石に持ってきてないけど、投影板、太陽投影板って言うのがあって、それを使うんだ。」

「あ、直接見る訳じゃないんだ。投影ってことは、何かに移すんだろうけど、あれって、そんなこともできるんだ。」

「うん、ちょっと面倒だけど。」

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