第23話
「確か、そうかな。うん、恒星にもあるんだって。」
「ね。身近なところだと、土星のが有名かな。」
「そうなのかな。木星にもあったと思うけど。」
「あ、知ってるんだ。でも、あんまりはっきり見えないから、それこそ10年位前かな、初めて地上の望遠鏡で観測できたのって。」
「近くに、いや、冗談みたいに遠いのは知ってるけど、それでも割と近いのに、そんなに難しかったんだ。」
「まぁ、星の近い遠いって、おかしな話だもんね。全部遠いんだもの。」
そういって笑う彼女には、僕も流石に笑うしかない。
見えてる星、恒星、一番近くてもそれこそ人の一生ではまず届かない距離にあるのだから。
「そうだね。でも、そっか。近いのに、分かってない事って、多いんだ。」
「うん、一杯。それこそ500年前までは、太陽が地球の周りを動いてるって、本当みんな信じてたわけだし。」
「最初に地動説の記録が、えっと、アリストテレスの後だっけ。」
「覚え方はともかく、そうだね紀元前3世紀の人。アリスタルコス。紀元前の人が計算に誤差と呼ぶには大きな間違いはあるけど、それでもきちんと観測して、記録して。それで計算したんだよ。」
付随する情報も、僕とっ違ってきちんと覚えているらしい彼女は続ける。
「結局のところ、その前からある天動説が正しいとされてしまったけど。
月食、月の変化、それをきちんと考えて、太陽の方が、あんなに小さく見える太陽が、地球よりも、月よりもずっと大きな天体だって証明はしたんだから。」
「うん、すごいと思うよ。」
彼女の熱に押されて、そこまではついていけずに、少し引いてしまう。
僕はそこまで天文学に興味はないのだ。
「えっと、うん、それでフォーマルハウトの話だっけ。」
「あ、うん。ごめんね。かなり話が逸れちゃった。でも、そっか。21個しかない一等星だし、明るいから秋になったら簡単に見つけられるよね。」
「そうなんだ。」
そう言われて、少し驚く。
「えっと。好きな星なのに、自分で探してみたりは。」
「うん。してないかな。」
正直に答えてしまえば、彼女は肩を落としてしまう。
一応、楽しめるようにと話題を振ったが、選択を間違えてしまったらしい。
初めから好きな星がないと、そう応えたらここまで落胆させなかったかもしれないが、それはそれで嘘をつくことになるし。
「そっか。そうなんだ。」
そう繰り返す彼女に、どうにか言葉をかける。
「秋だっけ。今度探してみる。」
「本当。」
「みなみのうお座にあるんだっけ。」
「うん。それに秋だとフォーマルハウトしか日本から見える、えっとそれこそ地平線とか、そっちを考慮せずに、普通に観測できるって意味で、一つだけの一等星だから。」
「そうなんだ。秋だけ少ないんだ。」
「うん。そうなんだよね。でも、星座まで覚えてるんだ。」
「読んだ本が、どちらかと言えば、そっちの方をしっかり書いてたからかな。」
「そうなんだ。でも、そんなに好きでもないのに、よく覚えるくらい読んだね。」
言われて、僕は空を見上げる。
そして、思いついたことをそのまま口に出す。昨日も、同じ言葉を口にするけど。
「星は、夜空は好きだよ。押しつけがましくないし。
だから、こうしてみるのは好きなんだ。」
「うん、そっか。」
「そ、僕はこれで十分。だって、綺麗でしょ、ここの夜空。」
「うん。そうだよね。私もそう思う。」
僕は完全に視線を上に向けてしまったから、彼女がどんな体勢かは分からないけど、彼女も見上げているんだろうか。ここに来なければ、町から離れなければ隠れてしまう、そんな多くの星を。
ここよりも、それこそ観測所があるところに行けば、より多くの星が見られるのかもしれない。
ただ、僕にはこれで十分。
何だったら、ここまで来ずに、夕涼みと、縁側に腰かけて、虫刺されに気を付けなさいと、そんなことを言われながら、ぼんやりと見上げる星空だけでも、十分だから。
星座にしても、その時祖母が指で追いかけながら教えてくれて、興味を持ったから、何処かから祖父が持ってきた本を読んで、そうして覚えただけなのだ。
「でも、まぁ、人それぞれだし。」
ぼんやりとそうして空をしばらく見上げながら指を動かし、首が疲れたなと思いだしたころに、視線を戻す。
すると彼女も、同じように、立ってはいるけど、空を見上げていた。
「うん、そうだよね。でも、少し残念かな。」
「そうなんだ。」
「せっかく、少し話が出来る同い年位、一つ下かな、に会えたのに。」
「まぁ、そういうものかも。」
「本当は、誰かがここに来てるのに気が付いた時、やっぱり怖くて、それでもね。」
そこで言葉を切った、彼女がこちらをまっすぐに見る。
「でも、期待はしたんだよ。ひょっとしたら同じ趣味の人かもって。」
「そっか。うん、それは僕が謝ったほうが良いのかな。」
「なに、それ。」
「期待を裏切ったから、かな。」
「勝手な期待なのに。」
そういって笑いだす彼女を見て、ようやく踏ん切りがついて、動かす指を止める。
「あのさ、祖父が、良かったら家に止まらないかって。」
「え。」
「うん、なんだかんだ、危ないし、荷物も重いだろうから。うちの方が近いみたいだしね。
祖父が、まぁ、良かったら、ってさ。」
「その、そこまでしてもらうのは。」
「任せるよ。そう声をかけて来なさいって、とりあえずそう言われただけだから。
君からしたら、僕だって得体のしれない相手だしね。」
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