第17話

「うん、美味しいや。」

「ちまき、美味しそうだね。私ももらうね。」

「ああ、これ、そういう料理なんだ。」


僕が分からなかった回答を、彼女がくれる。どうやらこれはそういった料理らしい。

食感が、普段のご飯と違う事は分かるけど、正直炊き込みご飯で作ったおにぎりくらいに思っていた。

中には、おにぎりの具材みたいに、レンコンとタケノコ、それと豚のミンチらしきものが詰められているし。

夕食が少なめという事もあるったけど、思ったよりもしっかりとした食べ物に少し驚く。

彼女は彼女で、一つを手に取ってかじりついていて、美味しいとそんな感想を漏らしている。

ただ、持たされた容器にはあと4つ程残っていて、流石に半分ずつとするには、僕は少ししんどい。

晩御飯を食べていなければともかく、普段より少ないと、そう言えるくらいにはしっかり食べたのだから。


「美味しいね。お祖母さん、料理上手なんだ。」

「うん、たぶん。」

「なに、それ。」


あやふやな返しに、彼女が声を立てて笑う。


「んー、僕がそんなに食事にこだわりがないからかな。」

「それでも、美味しいって思う料理を相手が作ってくれるなら、それってすごく上手って事じゃないの。」

「そうかも。うん。これまで美味しくない食べ物って、あんまり食べたことが無いし。」

「へー、あるんだ。それでも。」

「うん、家以外で食べたときに。」

「ほら。」


思い返して、これまで美味しくないと、そう感じた料理の共通点を答えると、彼女は今度こそ楽しそうに笑う。

そう言えば、家の料理で美味しいと思った事しかないけれど、外食をしたときは、これはちょっと、そう思うものがたまにあるのだ。口に合わない、そう思うものが。


「慣れてるだけかも。」

「だったら、珍しい、そう感じるんじゃないかな。」

「そうだね。そうだ。」


そんなことを話しながら、僕がもう一つに手を伸ばせば、彼女ももう一つ取り上げる。

その動きのためらいの無さに、美味しいというのもあるのだろうけれど、お腹が空いていたのだろう、そんなことを思う。


「晩御飯は、もう食べたの。」

「ううん。食べて動くと、やっぱりきついから。」

「そんなに大変なんだ。」

「あんまり道も良くないし、やっぱり荷物が重いから。」

「そっか。」


そうして、それぞれに黙り、手に持ったものを片付ける。

そして、どうにか二つ食べた物の、流石にこれ以上はと、僕は相手に容器を押し出す。


「えっと。」

「僕は流石にお腹いっぱい。」

「気を遣わせちゃった。」

「いや、僕晩御飯も食べてるから。本当にこれ以上は無理。」

「あ、そうなんだ。」

「うん、食べきれないなら、持って帰ってもらっても。」


多分、それも考えて祖母はこうして葉っぱとはいえ、包んである料理を準備したのだろうと思うから。

相手の状況を詳しく話したわけでもないのに、祖母にしろ、祖父にしろ、一体どうしてここまで気が回るのだろうか。気を回して疲れないのだろうか。


「あの、お祖母さんに、ありがとうって。」

「うん、伝えとくね。」


どうやら、彼女はさっき話したように、空腹を結構我慢していたらしい。

僕が見ている前で、さらにもう一つと手を伸ばして食べ始める。


「えっと、普段は。」

「うん、その、栄養補助食品みたいなのだけ。」

「それで、何日くらい。」

「一週間かな。水は水道があるし。でも、去年は流石に途中で一回買い物に出て、そこで食べたかな。」

「よく大丈夫だね。」

「あんまり大丈夫じゃないけど、好きな事だから。」


そういって彼女は苦笑いをする。


「ま、程々で。体壊したら元も子もないし。道が危ないなら、なおの事怪我したら、どうにもならないし。」

「うん、そうだね。でも、やっぱりこうやっていい条件で観測できることって少ないから。」

「へー、条件とかってあるんだ。」

「さっきも言ったけど、町中みたいに、明るい場所じゃなくて、雲がないとか、うん色々。」

「まぁ、星が隠れたら、見ることは出来ないもんね。」

「そうなんだ。どうしてもね。」

「少し郊外にとかは。」

「その、街の明かりってすっごく強いんだ。実のところここでも少し明るかったりするくらいに。」


その彼女の言葉に思わず首をかしげる。

十分に離れているし、少なくとも僕には月明かりと星の明り、そういった物しか感じられない。


「分からないよね。うん、それでも街灯が一晩中ついてたりすると、本当は見える星が見えなかったりするんだ。

 極限等級、えっと、天体望遠鏡の性能を表す一つの数値なんだけど。」

「へー、そんなのがあるんだ。でも、そっか、それがわからなきゃ選びようもないのか。」

「うん。勿論持ち運びできるようなのだから、そんなにいいのじゃないけど、やっぱり極限等級の星は見えないんだ。他の明りがあると、それに隠れちゃって。」

「それは、町中で星が全然見えないみたいに。」

「月の明るさもあったりして、そのあたりは結構難しかったりするんだけど、天体観測には、実は新月の夜の方がよかったりもするんだよ。」

「月も、きれいだけど。」

「それこそ、満月の時にいくらでも見えるから。」


僕がそっと月のフォローをすれば、彼女はそう返してきた。

まぁ、それはそうだろう。陰に隠れず、全体が観測できる、月の観測は確かに満月の時が一番やりやすいのだろう。

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