第7話

祖父母の家に着いた日は、結局何をするでもなく、思いのほか疲れていたこともあり、食事をすれば、何をするでもなく、祖父と並んで夜の景色をただぼんやりと眺めながら、お茶を飲む。

一時間もすれば、祖母から体が冷えますよと、声をかけられ、布団に入れば、気が付いた時には朝になっていた。


早速とばかりに縁側に出れば、僕の鉢植えも少しづつ増えており今では5つ目に差しか返っている。

最初に拾ってきた石に腰かけるようにと、そう手を入れていた盆栽は、今ではすっかり愛着も湧いたせいもあるのだろうが、愛嬌のある見た目に仕上がってきていた。

そんな様子を見ながら、うまく生えた枝が、石に座り体を軽くひねり腕を伸ばす、そんな姿に見えてきた。

そうなると、足元にあるものが石と土だけでは寂しく見えて来る。


「これ、草とか植えてもいいんだっけ。」

「ああ。だが細かく手入れがいるな。一年で枯れるものも多い。」

「そっか、とりあえず試しに植えてみる。」

「ああ。試してみなさい。ダメだったら、抜けばいい。」

「うん。そうだね。えっと、いい長さのがあるけど。」

「春先だ、まだ下ばえの背も低いだろう。長くても、切りそろえてしまえばいい。」

「そうだね。あんまり切らずに済ませたいけど。」

「なら、それを探せばいいさ。」

「うん。おじいちゃんのは、なんかこう、雄大だね。」

「ああ。」


僕は祖父が少し前、それこそ僕がここにきて3回目くらいに手を入れた鉢を見る。

祖父はほとんど枝や幹の向きを変えることもせず、ただ、時折横枝を落としたり、葉を整えたり、その程度しかしていなかった。それでも、のびのびと育ったそれは、大きく手が入っていないにもかかわらず、ちゃんと人によって自然の無作為さではない何かが感じられるのに、それでも自然の雄大さが感じられるものとなっていた。


「そうなってくれればいいと、そう思いながら育てたからな。」

「へー。伝わるのかな。」

「さてな、伝わってくれとそう思うだけだ。

 お前は、どうだ。伝わっているか。」

「うん。なんとなくだけど、育ってほしいように育ってくれるかな。

 でも、何だろう、久しぶりに見たら、前に思ったのと違ってても、まぁ、これでいいかなって。」

「そういう物だ。枯れてなければいい。品評会に出すなら、気を付けねばならんが。」

「いいや。えっと、見に行ってみたいかなとは思うけど、出してどうこうっていう風には。」

「ああ、興味があれば行ってみるといい。あっちに置いてあるが、ああいう大きなものも多くある。」

「へー。」


そうして祖父と並びながら、久しぶりだけどいつものように庭先に並んで、盆栽をかわいがる。

最初の鉢に草を植えるなら、他のいくつかの鉢にも、石や草、苔をあしらってみたくなる。

これには小石、あっちは、いっそ草だけ、そんなことを考えながらしばらく手を入れれば、祖母からご飯だよと声をかけられる。

それを食べながら、祖母から聞かれるままに一年の事を話す。

結局ここに来なかったのは、願掛けみたいなもので、行きたい高校に行くためで。

どうにかそれが叶ったから、こうしてのんびりきたのだと。

そう話せば祖母は殊更それは良かった、おめでとうと喜んでくれ、祖母も言葉少なによくやったと、そう言ってくれた。


「お祝い、しなきゃね。」

「いいや、ここではいつもみたいに。」

「そうかい。」

「うん。その方が嬉しい。そのために来てるんだし。」

「ならいいけど。今日はいつもと一緒かい。」

「そうだね、午前中は勉強して昼からは、また、石と今度は草も探して。」

「まだ風が寒いからね、上着だけは着ていきなさい。」

「うん。それから、夜はちょっとあそこの山を登ってみようかなって。」


そういって、これまで祖父と一緒に中腹迄しか行かなかった山に目をやる。

上まで行かなかったことに特別な理由は、しいて言えば途中でよさげな石を見つけて戻った、それくらいしかない。


「危なくはないが、夜は冷えるぞ。」

「一応、服は持ってきたから。」

「確か、懐炉がある、それも持っていきなさい。」

「分かった。そんなに冷えるんだ。」

「庭には垣根があるが、山にはないからな、風が冷たい。」

「そっか。」


祖父が相変わらず、端的にこちらの疑問に応えてくれる。

危険な物、万が一があるものはこうして教えてくれるが、それ以外に関しては、調べてみるか、やってみるかと、そういう人だと、それはもうわかっている。

だから祖父がこうしていうときには、僕は必ず聞くのだ。


「山は何をしに行くんだい。」

「楽器持ってきてるし、ちょっと練習に。家でもできるけど、それも楽しそうかなって。」

「風情があるな。」

「でしょ。」


そういって祖父と二人でくすりと笑う。


「体が冷える前に帰っておいでなさいね。それと、懐中電灯もあるから。」

「ありがと。スマホのライトでいいかなって。」

「風情を大事にするなら、ランタンもあったか。」

「あ、それもいいかも。」


僕がそう乗ると、祖父が思い出すように口にする。


「山の頂上だが、開いてある。いくつか切り株を残していてな。」

「へー。」

「お前の母親が子供の頃、連れて行った。そんな場所だ。」

「そうなんだ、聞いたことなかったや。」

「今度聞いてみるといい。」

「うん。」

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