第6話

始めて祖父母の家を訪れた、それと同じ季節、今回はずいぶんと久しぶり、本当に丸一年開けて、祖父母の家に行けることになった。

高校に入学して、まだ少し忙しくはあるし、初めての連休だから遊びに行こう、そんな誘いもいくつかあったけれど、それを全部断って、僕は久しぶりに、人の少ない電車に乗って、ぼんやりと窓からの景色を眺めて、揺られる。

去年一年、何度行きたいと思ったかは覚えてない。それでも受験がある。勉強をしなければいけない、そう自分に言い聞かせて我慢をしていた。

何処でもいいからと、両親にはそう言われたけど、ある程度自分が悪くない、そう思える高校を探して、そこに行こうと思ったら、やっぱりある程度以上の努力が求められ、毎日勉強をして過ごす事になった。

一年前の春、やっぱりそれをどうしようか悩んで、これ無くなるのは嫌だな、だったら少しくらい曲げようかな、そんな悩みを抱えながら祖父母の家に行ったときは、あまりいい表情ではなかったのだろう。

少し驚いたような顔をされながらも、どちらもこれまでと同じように接してくれた。

悩みがあるのかとも聞かず、顔色の指摘もせず。

僕が考えてることをぽつぽつと話しても、ただそれを聞くだけだった。

帰り際、暫くこれ無くなるかも、最後にそう言うと、祖父はただ、わかった、とだけ答えて。

それを見て、今の高校に行こうと、そんな決意をした。


そうして、初めての連休。

少し間が空いた電車に、いつものように乗って、いつもと違う持ち物で、揺られる。

変わらず母親からは、手土産を渡され、駅でも自分で少し買って。

いつもの鞄に着替えと、これまでよりも重くなった勉強道具。

そしてなんとなく始めたギターを持って。

家出はエレキ、アンプにつながなければあまり音が出ないし、ヘッドホン越しに聞けばいいだけだから、そちらを使っているけれど、今回はアコースティックギターを持ってきている。

祖父母の家の中でやるかはともかく、それこそ近くの小高い山にでも上って、そこで練習すれば、近所迷惑など考える必要もないだろう。そんなことを思って持ってきた。

僕自身、アンプ越しの、エレキギターの音よりも、こちらの音のほうが好きではあるのだし。


相変わらず、電車には気が付けば僕以外に二人ほどしか乗っておらず、そのあたりは変わらないと思いながら、いつものように、これまでのように、一人で窓の外をぼんやりと眺めていれば、変わらない風景がしばらく続く。

そして見慣れた駅、毎年少しづつ、どこかしらがガタが来ているように見えるそこを出て、祖父母の家に向かって歩く。

自分の成長を感じる一つの目安として、この駅から、祖父母の家まで、どの程度かかるのか、そんなものがあった。

面白いことに、来るたびに少しづつ縮んでいくもので、どこまで縮むのだろうか、そんなことも考えるけれど、それよりもと、見つけた少し変わった形の木は、今年はどうなっているのか、道の脇にはえている食べれると言われた背の低い木や、僕でなくともわかる、栗などの木の様子を見たり。

流れる用水や、小川の様子を見たり。

結局あっちやこっちに顔を出して、祖父母の家に行くまでの間に見つけたちょっとしたお気に入りの場所に顔を出してそんなことをしながら、のんびりと向かう。

それでも毎年かかる時間が短くなっているのが、成長と、歩幅が大きくなって、歩く速度が速くなった、その証拠何度ろうなと、そんなことを考えながら、のんびりと歩けば、荷物が重いとそう感じるころには、祖父母の家に着いた。


既に気心の知れたもので、鍵のかかっていない玄関、そこではなく、回り込んで縁側へと、向かう。

だいたいこちらに来れば、どちらかが庭を眺めてお茶を飲んでいる。

今回は、祖母だった。


「来たよ。久しぶり。」

「はい。よく来たね。また、少し大きくなったかい。」

「そうだね。少し。」

「それに今日は大荷物だね。」


そういって、立ち上がる祖母に何時ものように手土産を渡して、縁側の隅に荷物を置く。


「ちょとね。」

「そっか。疲れたでしょう。」

「今回はあんまり。体力着いたのかな。」

「そうかもしれないね。さ、玄関から入っておいで。

 お茶の準備をしましょうか。お爺さんは今中でゆっくりしてるから。」

「そうなんだ。私はこっちがいいかな。」

「そう。じゃあ、こっちに持ってきましょうね。」


そういって祖母が縁側から立ち上がって、家の中へと入っていく。

その背を追ってというわけにもいかず、荷物を置いて身軽になった体で、玄関までまた引き返して、お邪魔しますと、誰がいるわけでもないのに、声に出し、家に上がる。

少し間が空いたけれど、いつ来ても変わらないところがあれば、庭の様子も少しづつ代わっている。

一年放っておいてしまった盆栽も、結構背が伸びていたように見えた。

やりたいことは、せいぜいその手入れ位。

他に何かしたいことも、やらなきゃいけないこともない。

いつもと同じように、のんびりと過ごせばいい。

この一年受験のためにとこなかったけれど、休みのたびに、折に触れて、どうしても来たいと、そう思う事が有り、それをどうにか紛らせるために、ギターも買ってみた。

相変わらず、どうしてこんなにここに来たいと、向こうでの日々によくわからない疲れを覚えるのかは分からないけれど、それも今はいいと、そう切り替えて、久しぶりにこの家で過ごそう。

今回はすこし長い8日間、帰るだけの日を入れれば9日間。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る