第5話

「じゃ、行ってきます。」


長期の休みの時は、だいたい一週間くらい。

そして、何となく行きたくなってしまったときは、週末に。

年間、10回に届かないほどだろうか。

それでも、忙しかったり、なんだかんだと子供なりにやらなきゃいけないことが多い時は行けなかったりもしたけど、そうして、ふらりと祖父母の家に出かけて行った。

そして、二回目、夏休み、そういって、流石にちょっと叱られれば事前に行くと、そういう話くらいはする。

そして、その日は休みで家にいた母親に、そういって家を出ようとすると、呼び止められる。


「ちょっとまって。これ、持っていって。」


そういって、少し大きな紙袋に、このあたりの名前が入った食べ物らしき箱がいくつか入ったものを渡される。


「突然行くんだもの、お爺さんもお祖母さんも喜んでくれるけど、気遣いは見せなきゃね。」

「わかった。僕も駅で買う。」

「そうね、それもいいわね。でも冷たいものは駄目よ。」

「暑いのに。」

「駅から、遠いでしょ。その間に、熱くなるし、紙袋が濡れて破けちゃうかもしれないから。」

「へー。」

「車で行くなら、保冷剤とか入れて、持っていけるかもしれないけど、まぁ、電車ならやめておきなさい。」

「分かった。」

「さ、電車の時間に遅れたら大変だからね。行ってらっしゃい。二人に、よろしくね。」


そうして、引き留められることもなく、送り出される。

僕が先に行くけれど、今回も両親は後から来る。

お盆というのがあるから、両親も一日だけ、祖父母の家に泊まると、そう聞いている。

そして、僕もそれに合わせて帰る。

相変わらず人のいない電車に乗って、のんびり揺られ、前回とは違い、駅から出るなり、暑いとしか思えない駅の外。

前に来た時は、少し生えている、それくらいだった草が、すっかり背が高くなっている。

そこらじゅうから中からセミの鳴き声、良く知らない虫の鳴き声、鳥の声。

春よりもずいぶんと賑やかだ。

歩く途中に見える景色もずいぶんと緑が濃くなっている。

持ってきた水筒と、前と同じ、駅の自販機、虫がたくさんついていて、少し手が止まりかけてしまったけど、そこでまた、今度は2つ水を買って、駅から歩きだす。

帽子の影の下でも見にくい、それほど日差しがきつい中、のんびりと歩き出す。

ここでは、別に焦る必要も急ぐ必要もない。

道にさえ迷わなければ、それでいい。

そうしてのんびり歩いて、汗を流れるように書きながら、肌が木々の合間からさす日差しで焼かれるのを感じながら、道を歩いて。

春に比べて、水が流れる量が増えている用水路か、小川か、そんなものを疲れたときは、背の高い草むら越しにぼんやりと見て休みながら、祖父母の家に着く。


「来たよ。」

「いらっしゃい。外は暑かったでしょう。

 さ、まずは汗を流して、着替えてらっしゃい。」

「ありがと。うん、暑かった。それとこれ母さんから。

 あと、駅で見つけて美味しそうだったから。」

「そう、ありがとう。後でみんなで食べましょうね。」


そう言われて、荷物を全部取り上げられて、お風呂場に。

既にお湯も張られている、そこで汗を流して、体を上がって、これまた置かれていた服に着替えたら、縁側に向かう。


「来たか。」

「うん。」

「ゆっくりしていくといい。」

「うん。お邪魔します。ね、見に行ってもいい。」

「ああ、勿論だ。帽子は被ったほうが良い。夕方だが、まだ日差しは強いからな。」


そういって祖父に麦わら帽子を乗せられて、春先に、少しの間面倒を見ていた盆栽の前に立つ。

少しずつ幹も曲がり、老いた石に向けて近づいている。

少し背も伸びた気がする。


「少し大きくなったかな。」

「ああ。」

「ありがとね。」

「なに、一緒に水をやっていただけだからな。」

「種の方は、まだだね。」

「そんなにすぐの事にはならんさ。」

「そっか。」


そんなことを夕飯まで話す。

そして、疲れてご飯を食べたら、直ぐに寝る。

そして目を覚ましたら、前と同じように、毎日を過ごす。

そんなことを繰り返した。

それは、すっかり習慣と呼べるようなものになっていき、なんだか行かないと逆にもやっとする。

そんな行動になっていった。

最初はなんだか疲れたから、祖父母の家に来たはずなのに、今ではいかないとなんだか落ち着かない。

本末転倒かも、そんなことを思ってしまう。

それでも、なんだかよくわからない疲れは溜まるし、盆栽もある。

僕は一人で、時には両親に連れられ、祖父母の家に行くことになった。

父親も、母親も、偶の週末、突然僕を誘って祖父母の家に行って、家族5人、何となく縁側に腰かけて、何をしゃべるでもなくお茶を飲んで、ぼんやりと過ごして、そんな日も数回あった。

その時だったかな、僕がぽつっと、両親に、疲れたときにこうするのが好きなんだ、そう漏らすと、父がただ頷いて短く、同じだよ、そうとだけ答えてくれたのが、なんだか嬉しかった。

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