第4話
生活のリズムは正直これまでと変わったりはしない。起きる時間も食事の時間も、学校が休みであれば、だいたい同じ、そんな一日を過ごす。
だけど、不思議なもので、そうして過ごしていると、なんでここに来たかったのか、来ようと思って直ぐに行動に移したのか、それも分からなくなってくる。
「成程。」
そして、少し苔の生えた石を泉の側で見つけて、なんだか気に入ったそれを鉢植えに置いたらしっくりきた。
そして、祖父にこの石に腰かける様な、そんな風にしてみたいと話せば、祖父はそれに快く協力してくれた。
年に根がいっぱいにならなければ50cm程も伸びるらしいが、枝は一年に一度しか出ない。
鉢の中を根が埋めてしまえば、成長は止まり、そこからは根が傷み枯れていく。
そんな話を聞きながら、腰を掛けるようにした後は、どうしてみようかそんなことを考える。
ただ、結局のところ、枝が何処から出て来るのかもよくわからず、祖父には次の枝が出たら、その枝が出たときに、良くなるように考える、そんなことを話した。
祖父はそれに笑って、そうだなとだけ答える。
「種から、育ててみるか。」
「どうしよう。」
「種から始めれば、8年程かな、それでこれくらいの大きさになる。」
「そっか。うん、やってみたいかな。でも、どうしようかな。二つも持って帰れるかな。」
「なに、おいていっても構わない。また来た時に手を入れればいい。その間は枯れないようにだけ、見ておくよ。」
「いいの。」
「何か、悪い事が有るのか。こうして並んでいるのに、一緒に水をやるだけだ。」
「じゃ、お願いしようかな。」
そうして、その日から僕の趣味にそっと盆栽が加わった。
いい石を見つけたから、探しに行くのはどうしようか、そんなことを考えていると、今度は祖母に声をかけられた。
「もっと気にいる物が見つかるかもしれませんよ。」
そう言われたら、そんな気がして、やはり祖父と並んで、あちこちを歩き、石を探し、鳥の声が聞こえたら、そちらを双眼鏡で覗いてみたり。
そして、覗いた先に、こんな鳥がいたと、そう祖父に話せば、良く見つけたとほめられ、帰ったら古く色あせた写真が並ぶ図鑑で、その鳥を探してみる。
そして、それが終わるころには夕ご飯を食べて、それから両脇を祖父母に挟まれて、縁側からぼんやりと星空を眺める。夜風で体が冷えるころには、眠ってしまっているのだろう、気が付いた時には朝で、布団に入っている。
そして起きたらまた、祖父と庭先に並んで、食事をして、宿題をして。
そんな日を数日過ごしていると、祖父が、朝、盆栽の手入れをしている時に話しかけて来る。
「父親が、お前の父親が迎えに来るといっている。」
「そうなんだ。」
僕としても、すっかりここに来る前に感じていたよくわからない疲れは無くなっていたし、そろそろ休みも半分は終わる。
どのタイミングで帰ろうか、そんなことを考え始めたときでもあり、ただそれに頷く。
しかし、祖父は僕に聞いてきた。
「どうする。自分で帰るか。」
そう聞かれると、思わず考えてしまう。
一人で来たんだから、一人で帰る、そんなものかなと、そう考えてしまうけど。
ただ、それと一緒に他の事も考える。
そして、今回は、父親が来るのを待つことにした。
「今回はお父さんを待とうかな。一緒に帰る。
お父さんも、お爺さんに会いたいと思うし。」
「そうか、そうだな。」
僕の言葉に祖父は楽しそうに頷いた。
そして、週末まで、やはりそれまでと全く変わりない日々を過ごす。
特別何かすることもなく、盆栽の手入れは特別かもしれないけど、午前中に宿題、昼から遊ぶ、眠くなったら寝て、目が覚めたら起きる。
そう書いてしまうと、本当にこれまでの休日と、何も変わらない。
「今回はご迷惑をおかけしました。」
父親がと、そう聞いていたが両親が揃って迎えに来て、祖父母と話す。
「孫が来るのに迷惑な事など何もないですよ。」
祖母がそう言えば、祖父もそれにただ頷く。
そうして暫く僕がこちらで何をしていたか、両親の近況、祖父母の近況そういったことを話すのをぼんやり聞いていると、まだ来てから、一時間と少し、それくらいで両親がこの場を離れると言い出す。
なんだか、それはもったいないそう感じてしまうところもあるけれど、帰るなら一緒に帰ると決めたからと、両親について祖父母の家を後にする。
「ありがとう。また、来るね。」
「ああ、いつでも来るといい。」
別れ際に頭に手を置く祖父を見上げながら、そんなことを言うと、直ぐに祖父から返事があった。
「うん。また来る。」
そう繰り返していって、両親と車に乗っての帰り道。
少し怒られたりしながらも、なんだか帰る事、それ自体が楽しくなっていた。
また来よう。疲れたら。なんとなく、またここに来たいと思ったら。
そうして少しの小言が終わったら、両親に言われる。
「今度からは、何か書置きでもいいし、携帯にメールでもいいから。
行くときには教えてくれ。」
「分かった。」
「なら、いいんだ。」
そうしてしばらくしてから、父が僕に尋ねた。
「ゆっくりできたか。」
「うん。」
「たのしかったか。」
「うん。」
「そうか、それなら、いいんだ。」
こうして、初めて、祖父母の家に初めて一人で行って以来、また同じように、よくわからない疲れを感じたとき、長い休みがある時、そんなときにはふらりと祖父母の家に行く、そんな事が僕の習慣になった。
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