エピローグ

 才神学園の寮の前。

 叔父の家から走ってきたカケルの前に、ツヨシが現れた。


「勝負だ! カケル!」

「おう! 今日もぶっちぎってやる!」


 いつものように勝負を挑まれ、いつものように受けるカケル。

 だが、この見慣れた光景もこの一ヶ月お休みだった。

 ツヨシは肩を骨折、さらに足を痛めてしまったから。

 カケルも足腰を痛め、しばらく本気で走ることを禁じられてリハビリ生活だった。

 二人だけじゃない。

 ツヨシ、ケイミ、カオリの三人も多かれ少なかれ脱水症状などで病院にはこばれた。


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 あの日。

 地獄での五番勝負。

 カケル達は勝った。

 光を抜けた後、五人とも気を失った。

 そして、気がついたとき、カケル達は才神学園の校庭に倒れていた。

 そこからはもう、大騒ぎだった。

 カケル達五人は、カオリの転校初日の朝から二十四時間以上失踪していたことになっていた。

 クラスメート達は口々に証言したそうだ。

 カケル達はトイレに行くと教室から出て行った。その後は見かけていないと。


 もちろん、カケル達の記憶とは異なっている。

 大きな地震があって、地獄へと落ちた。

 鬼と戦って、人間界に戻ってこれた。

 カケルも最初は自分が夢を見たのかと疑った。

 だが違う。

 地獄での記憶は五人全員が共有していた。 

 同じ夢を同じように見るなんてありえない。

 それに、空手勝負で骨折したツヨシの肩や、マラソン勝負で使い切ったカケルの足はやはり傷ついたままだった。

 あれは本当にあったことなのだ。


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 誰かが、クラスメート達の記憶を操作したとしか思えない。

 カケル達は相談して、結局『よく覚えていない』の一点張りで押し通すことにした。

 他に方法が思いつかなかったのだ。本当のことを話しても信じてもらえるわけがない。


 学園からは散々怒られた。

 ことわりなく外泊して、骨折や脱水症状といった状況で発見されたのだから当然だろう。

 停学や退学にならなかっただけでもありがたいと言うべきか。

 カケルは叔父からも怒られたし、慌てて病院にやってきた母には思いっきり泣かれた。

 母を泣かしてしまったことだけは、本当に申し訳ないと思う。


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 ツヨシ、ケイミ、カオリは一日の入院で回復、カケルは一ヶ月ほどリハビリ生活。

 ツヨシの骨折の治療にも一ヶ月かかった。


 そして、今日。

 カケルとツヨシは久々に勝負している。


「負けねーぞ! カケル」

「むだむだー!」


 叫びながら走る。

 なんて楽しいんだろう。

 走るって、やっぱり気持ちいい。

 リハビリ中、思うように走れなくて、なおさらそう思った。

 カケルにとって、走ることは進むこと。

 道を進むだけじゃない。

 未来へ進むことだ。

 それはとてもワクワクすることだ。

 一緒に走ってくれる仲間がいれば、なおさらだ。


「今日もオレの勝ちだな」


 先に校舎につき、カケルは言う。


「ちっ、明日こそは俺が勝つ!」

「明日もオレが勝つ!」


 そんなことを言い合っていると、カケルのポケットの中でスマホが震えた。


(メール?)


 差出人は――


『閻魔王女』


 カケルは息をのむ。

 本文を開くと次のようなメッセージ。


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 カケルくん、体調は戻ったかな? いやー、あの時は見事な走りっぷりを見せてもらったよ。本当、すばらしい。憎たらしいほどにね!


 だから――


 今度、また地獄で遊ぼうよ!


 それまで、せいぜいお友達と仲良くね♪


====================


《完》

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地獄ファイターズ 罠だらけの五番勝負!! ななくさ ゆう @nanakusa-yuuya

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