第8話 鬼数字の罠!? フラッシュ暗算勝負!(後編)

 次々現れる鬼数字。

 最初は2桁の足し算。ケイミにとっては鬼数字であっても楽勝だ。

 ケイミもユングも、簡単に正解。

 だんだんと難易度が上がっていく。

 10回目あたりになるとかなり難しい。

 足し算だけでなく引き算も。

 3桁の鬼数字が次々と現れては消える。

 赤い数字は足して、青い数字は引く。


「答えは……」


 ケイミもユングも正解を続けていた。


(さすがにやるわね)


 鬼数字かどうかはともかくとして、3桁のフラッシュ暗算は素人では難しい。ユングも鬼の子どもの中では暗算が得意なのだろう。


(でもね)


 ケイミは気づいていた。

 先ほど、ユングは答えるまでに数秒かかった。それはつまり、計算が追いつかなくなりつつあるということ。

 先ほどの問題。3桁の数字が20個。しかも引き算が混じっている。

 このあたりになると、そう簡単ではない。


 そもそもだ。鬼数字なんていうものを持ち出して来た時点で、ユングの素の計算力はケイミ以下だと自白しているようなものだ。

 ケイミは確信する。


(ここが攻め時!)


 ケイミは不敵に笑って言う。


「ユングだっけ、アンタもやるわね」

「お褒めにあずかり光栄」


 言うユングには余裕がなさそうだ。

 それを理解しながら、あえてケイミは言ってのける。


「このままじゃ、勝負がつかないわ。1つ提案させてもらえないかしら?」


 ケイミの言葉に、閻魔王女が尋ねる。


「何かしら?」

「次は一気に問題を難しくしましょう。5桁の足し算と引き算を100個」


 その言葉に、ユングが驚愕する。


「お前、正気か?」

「もちろん! ああ、ごめんなさい。あなたには難しすぎるかしら?」

「それは……」


 言いよどむユング。

「私はできるわよ。どうする? 恥をかかないうちに棄権する?」

「人間相手にそんなことをするものか。閻魔王女様、彼女の挑戦を受けます!」


 そうユングが宣言し、会場内が湧いた。

 一方、閻魔王女は顔をゆがませる。

 ユングにはこの条件の計算は難しいと分かっているのだろう。

 だが、ケイミがその計算をできるというならば、どのみちユングに勝ち目はない。


「選手の都合でルール変更するなら、条件があるわ」

「なにかしら?」

「もし、ユングとケイミちゃん両方が不正解なら、引き分けじゃなくてケイミちゃんの負けとする」


 なかなかに身勝手な提案。

 本来なら、うなずく必要はない。

 フラッシュ暗算勝負に勝つためだけならば、このまま少しずつ難易度を上げていった方が確実だ。


 だが。


 第三勝負だけでなく、五番勝負に勝つためには……


「いいわよ。私の実力、見せてあげる」


 ケイミはそう言って不敵に笑ってみせるのだった。


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「ば、ばかな……」

 ユングが顔を引きつらせる。

 5桁のフラッシュ暗算。

 ユングは不正解で、ケイミは正解だった。

 この勝負、ケイミの勝ちだ。

 閻魔王女が高らかに宣言する。


「フラッシュ暗算勝負はケイミちゃんの勝ち!」


 会場内にブーイングが起きる。

 ケイミは「ふぅ」っと息を吐いた。

 舞台から降りるケイミに、カケルが駆け寄ってくる。


「ケイミ、お前、本当にすごいんだな! オレなんて1桁の足し算だって間違えるのに」

「それはカケルがバカなだけよ」

「なんだよ、せっかく褒めたのに」

「相手が弱すぎ。あんなヤツ、私には楽勝よ」


 そう笑うケイミだが、本当は楽勝などではなかった。

 人間界の数字ならともかく、鬼数字では最後の問題に正解できるかは賭けだった。実際、途中で『★』か『☆』かわからなくなりかけたのだ。ケイミもまばたきを完全におさえることはできない。


 それでも。

 ケイミは勝った。一見すれば圧勝だ

 人間でも鬼に勝てると見せつけてやった。

 これは大きなことだ。


 自分が勝つだけならもっと慎重に戦うことだってできた。

 だが、こうして相手をたたきのめしたことで、後に続くカオリ達が『自分も勝てるかも』と思えるだろう。

 相撲勝負で意気消沈しかけた味方の士気を上げるため、あえてケイミは無茶な戦法を選んだのだ。


 そんなケイミ達を上空から見つめる閻魔王女には、まだまだ余裕がある様子だ。

 彼女は次の勝負を宣言する。


「第三勝負は将棋! 人間の代表は将棋の天才少女カオリちゃん!」


 カオリが立ち上がる。


「カオリ、頑張って」

「ええ」


 カオリは小さく、しかし力強くうなずいたのだった。

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