第4話 地獄へようこそ(後編)

 カケル達は扉の前に立つ。

 近づいてみると、本当に大きな扉だ。圧迫感すら感じる。

 それにデザイン。やたらリアルなドクロが掘られている。


「悪趣味」


 ケイミがそう吐き捨てたが、カケルも同感だ。

 カオリが不安そうに言う。


「この扉、わたしたちに開けられるのかな?」


 確かに。

 鍵がかかっているかどうかという以前に、何しろ巨大な鉄の塊だ。全員で押しても動かせるかどうか……


 ツヨシが言う。


「わからんが、全員で押してみるしかあるまい」


 確かに。ケイミやカオリはともかく、男子3人は肉体派の転載児。特にフトシは怪力の持ち主だ。

 カケル達はうなずき合い、扉に手をふれ……られなかった。

 扉に触ろうとしたら、体がしびれたのだ。まるで電気ショックを受けたかのように。


 カオリが叫ぶ。


「なにこれ、扉に電気が流れているの!?」


 本当に、一体何なんだこの状況は。

 意味がまるで分からない。

 いずれにしても、扉を開けるのは無理そうだ。そう考えたのはカケルだけではなく、カオリもケイミも、それにフトシも諦めた様子だ。


 だが、諦めなかったヤツもいる。

 ツヨシだ。


「仮にそうだとしても、進む先は扉の向こうしかない」


 彼はもう1度鉄扉に手を伸ばそうとする。

 フトシが慌てて止める。


「ちょっと、ツヨシくんやめなよ、むちゃだよ!」


 彼がそう言うのも無理はない。

 さっきの電気ショックのような衝撃はかなりのものだった。静電気をピリッと感じたなんてものじゃない。今だに手に痛みが残っているくらいだ。

 カケルとケイミもツヨシにいう。


「フトシの言うとおりだと思う」

「そうよ、私はもう無理!」


 だが、ツヨシは諦めない。


「俺はどんなときでも諦めず前に進む。そう決めている」


 そう言い切るツヨシ。


(『諦めず前に進む』か)


 カケルはふぅっとため息。

 その言葉は、むしろカケルの人生観そのものだ。


「わかった、オレも手伝う」


 カケルは覚悟を決めた。

 42.195キロ走る時と同じだ。

 とても無理だと投げ出してしまえば何もできない。


 ケイミとカオリが困惑した声を出す。


「ちょっと、本気なの?」

「体育会系はこれだから……」


 ツヨシは言う。


「ケイミとカオリに手伝えとは言わん」


 カケルもケイミやカオリに手伝ってもらおうとは思わない。男女差というより、2人ともインドア系の天才だ。肉体的な力は一般中学生の平均よりも低いだろう。はっきりいって、鉄扉を動かす戦力にはほとんどならない。


 が。


「それって、僕には手伝えって言っているよね?」


 フトシが泣きそうな声でそう言う。

 カケルはうなずく。


「まあな」


 5人の中で1番力があるのはフトシだ。

 フトシと比べれば、カケルだって戦力外かもしれない。

 フトシは「はぁ……」とため息。


「わかったよっ! 手伝えばいいんだろ」


 どうやらフトシも覚悟を決めたらしい。

 3人で鉄扉に手を伸ばす。

 が。

 その瞬間だった。


「やめておきなよ。せっかく地獄に招待してあげたのに、そんなことをしたら、魂が消滅しちゃうよ」


 聞こえてきたのは見知らぬ声。


 いや、違う。

 この声には聞き覚えがある。


 そうだ。教室で最後に聞こえてきたあの声。

『地獄に招待』と言った謎のメッセージ。

 あの時の声と同じだ。

 今回は脳に直接ではなく、普通に耳から聞こえてきたが。


「どこだ!?」


 叫ぶツヨシ。

 島には誰もいなかった。それはもう確認済。

 ならば、扉の向こうか?


 いや、違う。

 上空だ。


 血のように赤い空に、10歳前後の女の子が浮かんでいた。

 そう、浮かんでいたのだ。

 重力なんて関係ないかのように。

 驚愕に目を見開くカケル達5人の前に、女の子がするすると降りてくる。


「その扉は生(せい)者(じや)が開けられるものじゃない。無理に開けようとしたら、命が危ないよ」


 女の子の言葉に、カケルは確認する。


「それはつまり、オレ達は死んでいないと?」

「ははっ、もちろん!」


 にっこり笑う女の子。


「生きたまま、アタシが招待したんだよ。この地獄の入り口にね」


 地獄の入り口。

 ゴクリとカケルは唾を飲み込む。

 ケイミが尋ねる。


「それは比喩としての地獄? それとも、本当の意味での地獄?」


 女の子はニコニコしたまま答える。


「答えは後者かな。ここは『地獄のような場所』じゃない。『死んだ後に悪人が落ちる地獄』だ」

「なるほどね……」


 ケイミは何かを考え込み始めた。

 一方、ツヨシが女の子をにらむ。


「それで、お前は何者だ?」

「アタシ? そうね……アタシは閻魔王女」

「閻魔王女?」

「そう、かの有名な閻魔大王の娘だよ」


 女の子――閻魔王女はそう言うと、どや顔を決めてから続けた。


「みなさん、地獄へようこそ! 心から歓迎するよ!」

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