ニセモノJK援交日記

水辺ほとり

第1話

 三万円を握って、ホテルを出た。女子高生として脚を開いた分の代金としてはまぁまぁの額だった。

 ショートボブの黒髪からホテルのシャンプーの匂いがする。ムスク系のむせそうな香りはセックス臭くて嫌いだ。早く帰って、自分のシャンプーの匂いに変えたかった。

 脚の間がじんじんとする気持ち悪さと、焦げ付きそうな欲求が少し満たされた思いがする。私の体は3万円するのか。いや、あんな大きいのを受け入れたので3万くれたのかな。家までの道のりをせかせか歩く。サポートするのは初めてなんだと照れ臭そうに言っていた、あのウブそうな社会人。馬鹿だな。本物の女子高生は援交なんてしないのに。

 三万を受け取って、じゃ、終わったから帰ります、とさっきまでの媚びた態度を変えた時の呆然とした顔、とても笑えた。

 これで、私は好きなアイドルのグッズが買える。19にもなって、何をやっているんだろう、と思っちゃう時はある。でも、推しのためにはいくらだって、何をしたって稼いでみせる。待っててね、と呟いて、レアグッズのオークションを確認した。


 今日も帰り道。濡れたくつ下が気持ち悪い。けど、これも2万のうちだと思うと仕方ない。

 お風呂に入ろうとしたら、バスローブ姿の人に押し留められて、押し倒されて、くつ下の裏を嗅ぎ回られたり、くつ下を脱がされて足を舐められたりした。舐められるのは、ちょっと悪くないと思った。でも濡れた足は気持ち悪いし、嗅がれるのもイヤだった。よだれまみれの足にくつ下をまたはかされて、そのまま帰るなら上乗せすると言われて、今はその金額に負けて帰っている。最悪だ。私なにやってるんだろ……。また別の人からもらえばよかっただけなのに、もっともらいたくなってこんな気持ち悪いこと真面目にやってるのがバカみたい。

 でも、替えのソックス500円を買うくらいなら、推しの缶バッチを買える方がいい。

 バカみたい、と呟きながらローファーの中でぐちゃぐちゃするくつ下を履いて帰った。


 今日は、狭くて壁の薄いビジネスホテルの後、夜ご飯デートもした。

 ゴムなしがいい、痛いから、と聞き飽きた言葉を言われて、えーそれは困っちゃうから帰るね、とニコニコ言ったらゴムをつけてくれた。

 怒らせちゃったお詫びだよ、と夜ご飯デートを提案された。断ろうかと思ったけど、その分、金額が盛れるから仕方ない。でも、性欲をお世話しているだけで、人間として喋ったりご飯食べたりは、できればしたくないなと思った。

 ロイヤルホストで、会社の愚痴と、奥さんと別れたい話をうんうんと聞いて、三千円の上乗せをもらって帰った。

 大学で友達と食べるコンビニ飯よりずっと高かった。でも、コンビニ飯のほうが美味しい気がした。友達と一緒だったからかな。

 一方的に話をされるのはゴミ箱にされてるみたいでムカつく。精をビクビクとナカに放たれるのはムカつかないけど疲れる。どう違うのかは私には難しくて分からないけど、喋ってる時の方がみんな私を雑に扱ってる気がした。

 毎回何かが削れていく。でも、これなしにはもうグッズを買いきれない。何より、男の人に組み伏せられたときの必死な顔は、結構好き。今この瞬間だけは、この人は絶対、私の体が欲しいんだ、ないとダメなんだ、と思うと少し満たされるんだ。


 今日は、優しそうなおじさま。金回りが良さそうな人で、都心の大学の偉い人らしい。ホテルは高そうでクリーム色の壁が綺麗だった。ふかふかの天蓋付きベッドに横になってお姫様気分だった。

 ニコニコしたおじさまが、お待たせしました、と上半身裸になった。さてと、と体を起こして、おじさまの背中を見て、ゾッとした。おじさまの背中は傷だらけで、青黒い模様が縦横に刻まれていた。

 さあ、背中を打ってください、と鞭を渡された。怖くて、鞭を握れずにいると、さあ、早く、と言葉がどんどん強くなる。人を叩くのは初めてで、どうしていいかわかんない。まずは、ぺちん、と鞭で軽くぶった。怒鳴られた。ふざけているのか!もっと脚を開いて、腰を入れて、野球のバットみたいに打つんだ!

 私は言われた通りの姿勢で、びゅん、びゅん、と鞭をふった。鞭には、束になった革の紐に混じって、先の尖ったチェーンが入っていた。だから、私の力加減が全部おじさまの背中に血で描かれる。少しずつ背中が血だらけになって、おじさまはただ息をしている。

 緊張に耐えられない。こわい。気持ちがいっぱいになって、手を止めて、えぐえぐ泣いちゃった。どうしてできないんだ!鞭を持つんだ!って言われたけど、できないよお……って言ったら、服を着始めた。小さい声でお金ください、って言ったら、バン!!って2.5万とホテル代を置いて、出て行った。

 今度から、事前にやりたいことを聞こう、けがをしたい人は怖いから避けよう。

 推しの画像を見て、あとのことは忘れられたらいいのにな。背中の赤黒い色が頭の中でちらちらした。


 今日の待ち合わせは、駅でもホテルでもなく、橋の下だった。正直、明かりが少なくて、殴られたり蹴られたりされるかなって、正直怖かった。

 現れたおじさんは、見るからに汚くて、あんまりお金もなさそうだった。いくら出せる?って聞いたら、3千円らしい。

 ここでスカートをめくって見せろと言う。やんわり断ったら、顔を近づけてくる。臭い生温い息がかかって、気持ち悪かった。8千円出すから、出すから見せてくれ、と言う。受け取った後、スルリとスカートをたくし上げた。寒いからトイレ行くね、と言って逃げようとしたら、ここでしろ、と言われて、見られながらした。

 足下には花壇があって、一生懸命それを踏まないようにした。お花を見て、気を紛らす自分と、冷めた目でばっかじゃないの、と思う自分がいた。

 汗ばんだ手で8千円握り締めて、下着を直して、全力疾走でその場から逃げた。

 もう、やだな、と思ったけど、推しのためには何でもやると決めたんだから、淡々とやっていこうと思った。


 今回は、条件がいい。首下の写真には、清楚系じゃん!はずもうかな、と言ってくれた35歳社会人。

 駅の前で待ち合わせると、感じのいいお兄さんがニコニコと立っていた。喫茶店に入ると、いつからやってるの?いつもこのハンドルネームで募集してるの?と質問してくる。

 金額を確認し、いざホテルの前へ着くと、手をギュッと握られた。顔がいいからドキドキする。

 お兄さんは尻ポケットに手を伸ばすと、証明写真と本名の書かれたものを突きつけてきた。

「警察です。署まで同行願えますか?」

「えっと。任意同行ですよね?いやです」

ぷいと横を見ると困り切った顔で警察官は電話をかけた。

「未成年保護。応援頼む」

そこからはパトカーがきて、警察署へ連れて行かれてしまった。

 お母さんは?学校は?と質問責めを受けたけど、むっつりと口をつぐんで、足を組んで数時間過ごした。

「もうやらないようにね」と釘を刺されて、帰された。


 現実に帰ってきちゃった。

 怖い思いもしたし、警察にも怒られたし、もうやめた方がいいよなぁ。明日からは心を入れ替えて生きよう。

 でもついつい、クセで推しのグッズを検索しちゃうんだよね。これ、欲しいけど高いなぁ……。


 夕暮れの川沿いで、嫌になった気持ちのまま、お天気占い。足を蹴り上げて、ローファーを天高く投げた。ローファーは、着地せず、土手を転がった後、川にぼちゃんと落ちた。片っぽだけのローファーは、流されて橋の下へ消えていった。

 

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