第7話 準備

ボクはこのモヤッとした気がかりをスッキリさせようと、考えるよりアルトに直接聞いてみることにした。


「アルト?」


(ん?)


「ボクなりに考えて…決めたよ。」


(うん。そうか。…で、セナはどうしたい?)


「ん…。 その前にボクから聞きたいことがあるんだけど、答えてくれる?」


(おう。何かあったのか?)


「ボクにこの住処から離れようって話しをする前に本をみたよね? あれって何か意味があったの?」


(………。)


「アルト?」


(ん。…それはな? セナが旅立つと決めて、旅立って少ししてから話そうと思ってたことなんだが。)


「うん。ボクもうこの住処から出ようって決めてるよ。でもそのことが気になって…。」


(そうか…。 実は前から俺が思ってたことなんだが、俺は今、意識だか魂だけの存在でセナの中に入れてもらってる状態だよな?)


「うん…。もうすっかり慣れちゃったけど。」


(ここからは俺の推測なんだが、この先もしセナが死ぬようなことになれば当然俺も死ぬ…というか消えると思う。別にそれはいいんだが、なら生き続けたら俺はずっとセナと一緒にいることになると思うんだ。)


「うん。ボクもそう思うよ。」


(そうなると、今はまだいいが…セナはこれから成長して大人になっていく。それにセナが女だったことも知って、…そう。大人の女性になっていくんだよ。そんなセナの中にこんなオッサンが居続けるのは色々とマズいと思った訳だ。)


「アルト…ボクのこと心配してくれてたんだ。」


(ん、まあ…な。 で、だ。 俺は何とかしてセナの中から出ることはできないか?と考えていたんだが、俺の知る限りじゃ人間にはそんなことできない。そんな魔法も知らない。でも世界は広い。何か方法があるんじゃないか?あるとすれば、その方法を知ってる奴がいるかもしれない。それを実行できる奴がいるかもしれないって思ったのさ。…そう思ったとき、あの部屋で見かけた書物から何かしら情報が掴めるかもしれない。そう考えてあの本を見せてもらったのさ。)


「そうだったんだ…。で、何かわかったの?」


(ああ。あの本の情報が正しければ古竜[エンシェントドラゴン]なら何か知ってるかもしれない。もしかしたらセナの中から俺を消せるかもしれない。そう考えたら…ついセナに外の世界へ行こうと相談したって訳さ。)


「そんな… ダメだよ…。」


(え?)


「アルト…消えちゃ嫌だよ!ダメ! ならボクいかない!ずっとここにいる!」


(え?いや、あのな?)


「アルトが消えちゃったらボクまた1人ぽっちになっちゃう!嫌だよ!怖いよ!1人にしないで!?ずっと一緒にいてよ!」


(わかった! セナ! わかったから!聞いてくれ!)


「……。 うん?」


(言っただろ?俺の推測なんだって。 そもそもが無理な話しなんだ。)


「…無理?」


(ああ。考えてもみろ?まず古竜なんて探して会えるもんじゃない。何処にいるのかさえわからん。で、もし古竜を探し当てて会えたとして、そんな方法を古竜は知ってるのか?知っていたとして実行できるのか?実行できるとして古竜がやってくれるのか?…無理だろ?目が合っただけで殺されるだろうさ。)


「あ、…うん。」


(だから、ただの願望というか希望というか…何もないよりは旅の目的みたいなものになれば、と考えた訳だ。)


「そっか…。でも!アルトが消えちゃうのはダメ!だったらきちんと転生できる方法を探すのにしよう?」


(ああ。そういうことか。…セナは優しいな。 うん。ありがとう。そうしよう。)


「うん!じゃ!さっそく出発しようよ!」


(まて!まてまてまて! まずはキチンと準備をしてからだ!な?)


「あははっ!うん!そうだね!」


そしてボクはアルトに教わりながら旅の準備をはじめた。


(ところでセナ?マジックアイテムはないか?)


「マジックアイテム?」


(ああ。以前セナの生い立ちを聞いたときに思ったんだが、セナの母親は身篭もった状態で村から1人でここに移住したのだろう?)


「うん。お母さんからそう聞いたよ。」


(そんな身重な状態で、あの本とかもそうだが他の荷物も1人でここまで運ぶのは…他に協力者がいなければ不可能のはずだ。)


「言われてみたら…うん。そうだね。」


(と、言うことは、だ。協力者もいない、1人でここまで荷物を運んだとしたならば、収納の魔法が付与されている鞄や袋があるんじゃないか? と思ったわけだ。あるなら旅に使えるぞ?)


「そっか! じゃお母さんの部屋にあるかもしれないね?探すよ!」


(ああ。それ以外にも何か旅に使えそうな物がないかも探してみよう?基本的な装備を揃えるのはその後でもいいだろう。)


ボクはさっそくお母さんの部屋へ入り色々と探しはじめた…。


…でも。


(う~ん…何もないな…。)


「ベッドの下にないかな?」


(え!?それはマズいだろ!)


「アルトじゃないんだから!変なもの隠してるワケないよ。」


(うっ!…俺はそんなとこには隠さない!)


「なんの話し?」


(あ、…いや。ほら!真面目に探すぞ!)


「う~ん。…あとはタンスの中かな?」


(そ!そこもマズくないか!?)


「あー。アルトのエッチ。」


(バっ!何言ってんだ!ってそもそもセナの母親は年いくつなんだよ!?)


「え?…っと、ボクが産まれたとき17って言ってて、ボク今13才で…12のときに死んじゃったから~29才かな。」


(若いな!…きっとセナに似て美人だったんだろうな。)


「え?アルトは年上が好みなの?」


(な、なに言ってんだ! 俺は!

…好みも何も、…ははっ…女っ気のない…人生だったさ…。)


「え?…アルトっていくつなの?」


(俺は…死んだときは確か21だったな。)


「21才…彼女もなし…。」


(ぐあっ! やめてくれ!俺の心を抉るな!)


「あはっ ごめんなさい。…でも、夢でみたアルトは格好よかったよ?」


(お?、おう。…何か、気を遣わせたみたいで…悪いな。)


本当なのに…。


「なら、ボクがタンスの中を探してる間アルトは目を瞑ってて?」


(…ああ。そうさせてもらうよ。)


「それとも~見たかった?」


(コラ!大人の男を煽るな!)


「はーい。」


ボクはアルトで楽しんだあとタンスの中を見た。

洋服や下着を出して、とりあえずベッドの上に置いていく。

ボクがもっと大人になったら着てみようかな。

でも旅に持っていけないよね。


「あ。」


(なんだ?何かあったのか?)


「お母さんってこんなキワドイ下着つけてたんだ。この赤いのとか。」


(キ、キワドイ? …赤い?)


「これなんて紐だよ?ボクつけてみようかな?」


(ひ…紐…。 おいコラ!ヤメロ!俺をからかうな!)


「え~? けっこう本気なのに。」


(な、何か知らんがゴメン!俺が悪かった!許してくれ!)


「もしかしてアルト見てた?…エッチ!」


(だあーー!勘弁してくれ!)


「えへへっ。ごめんねアルト?なんか面白くて。」


(まったく…心臓に悪い。…心臓ないけど。)


「あ。」


(こ!今度は何だ!?)


「これって…お母さんの…日記?」


(そうなのか?…見るならいいぞ?俺はずっと目を瞑ってるから。旅の準備だって急がなくていいんだからな?時間は沢山あるさ。)


「うん。アルト…ありがとう。」

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