第6話 キモ~い

翌朝気持ち良く目覚めると、 …

アルトが気持ち悪くなってた。


(あ、お、おはようセナ。今日もその、良い天気だな! その、なんだ。どこか痛いところとかないか? あ、アザとか出来てないか?)


「ねぇアルト?」


(お?おう!なんだい?)


「アルト…スゴくキモいよ…。」


(キ、…キモイ?)


「だって、ボクが女ってわかった途端に変に優しくなってさ。そんなに気遣わないで? ボクは前までのアルトのほうが好き。」


(そ…そうか…。その。な。俺もどうしていいか。今まで生きてきて~って死んだけど、じゃなくて。あの。若い女の子と接したことがなくってだな…。)


「そうだったんだね。ありがとうアルト。でもね? ボクは今まで通りのアルトでいてくれたほうが嬉しいから。」


(お、おう。スマンな。 頑張るよ。)


それからのアルトはしばらくの間は変だったけど少しづつ前と同じようになっていった。


無理にそう努めようとしてるときもあるけどね。


ありがとうアルト。


(あのさ、セナ。ちょっと頼みがあるんだが…。)


「どうしたの?改まって。」


(前に鏡を取り出したときに入った部屋があるだろ?)


「うん。お母さんの部屋だよ。」


(その部屋にあった書物をだな、よかったら見たいのだが…。)


「うんいいよ?そんな畏まらなくたっていいのに。…あ、エッチな本なんてないよ?」


(いやいや!セナのお母さんが亡くなってから、あまりその部屋には入りたくないのかな?と思っただけだ!そんな如何わしい本なんて…………見たくない!)


「その間はなに?…あ、うん。まあ。 お母さんが死んじゃってからしばらくはね、そんな感じだったけど…いまは別に、用事がないだけだから。」


(そ、そうか。…ならよかった。)


「アルト。気遣ってくれてありがとう。」


(お、…おう。)


ボクはお母さんの部屋へ入り本棚の前に立った。

お母さんは本が好きで昔はたくさん持ってたと聞いたことがあったけど、この住処に移り住むときにたくさん捨てちゃったらしいから…。

ボクの目の前には少ししかない。


(その右端の本を見せてくれるか?)


「うん。これでいい?」


ボクは[種族]と書かれた古い本を手に取った。


(ああ。それでいい。目次を見せて。)


表紙を開くとすぐ裏が目次になってた。

紙が貴重な時代に作られた本みたい。

上から獣、魔物、人間、エルフ、と色々な種族が書いてある。

モンスターって昔は魔物って呼んでたんだね。

悪魔族なんて怖そうな種族もあった。


(…やっぱり。…その1番下の竜族のところを開いてくれるか?)


「うん。」


竜族のところを開くと小さな文字がびっしりと並んでいた。

ボクには読めない文字も多かったけど、簡単にざっくり読むと…。


竜族とは一言で表現できる程の単一の種族ではない。

突き詰めたら魔物に至る程に分類されてしまう。

魔物の項目で説明済みであることから飛竜[ワイバーン種]から下位の竜族に関しては割愛する。

上位の竜族は大概は人化できる。

人の形になりたくない者、なろうと考えない者なども存在するが人化はできる。

人化する理由としては通常時での生命力消費量を少なくする為とされている。

上位の竜族には竜、赤竜[火竜]、青竜[水竜、海竜]、金竜[雷竜]、多頭竜、古竜などが存在する。

いずれも長寿命で知能も高く、身体は大きく、体表に並ぶ鱗は如何なる攻撃にも耐え、知識も広く、竜族の使う言葉を人間などの種族が真似て広く知れ渡ったとされる。

魔法も然り、魔族、悪魔族、エルフ、人間などの種族が竜族の使う魔法を真似たとされる。

特に古竜が使用する魔法は凄まじく、天を操り、大海を操り、大地を操り、時を操り、空間を操り、生命さえをも操るといわれ。人間などでは到底及ばない神と思える程の力を持つ竜族もいる。


と記してあった。


他にも細かいことが色々書いてあったけど大体こんな感じかな。


(うん。やはりな…。)


「何かわかったの?アルトの知りたいことは書いてあった?」


(ああ、まあな。…でだ。セナに相談があるんだが。)


「ん?なに?」


(俺が思うに、セナはここに留まる意味や理由はあるのか?…もし何もないのなら、ここより外の世界へ行ってみないか?)


「え?」


(これまでセナはホビット族に受け入れてもらえず村から離れたこの場所を住処にしているが…。 ホビット族に受け入れてもらわなきゃいけない何かがあるのか?)


「…それは…。」


(セナのことだから他種族の土地や人間界に行ったとして、受け入れてもらったとしても何の取り柄もないから生きていけないとでも思っているんじゃないのか?)


「…うん。」


(それとも、母との思い出が詰まったこの住処を離れるのが嫌なのか?)


「うん。…それもあるよ。」


(もしもでいいから考えてみてくれないか? どうしてもこの住処から離れたくないならそれでいい。でもセナが外の世界に興味があって行ってみたいと思うのであれば俺は…。 まあ大したことはできないが、相談に応えるし俺の知識を使っていい。助言もできると思う。そういう意味で頼ってくれていいから。…どうだ?)


「…ううん。」


(ん?)


「少し…。 ボクに考える時間をちょうだい?」


(ああ。もちろんだ。どちらになろうと俺はセナの意見を尊重するよ。)


ボクは改めて考える。


アルトに言われたことはボクも思ってた。


ホビットに受け入れてもらいたかったのはボクが弱い存在だったから。


外の世界へ向かっても生き延びる自信もなかったから。


でも、もう以前のボクとは違う。


お母さんがボクのことをボクと呼べと教え育てたのだって理解できてた。

女ってわかったら攫われたり売られたりして奴隷として生かされるか色々されて捨てられるだけだから。


でも、もうそうはならない。


アルトが教え鍛えてくれたから。


自分でもわかるんだ。


村のホビット達の力なんて、とっくに追い越して遙か上にいること。


きっと他の強い種族と比べても引けを取らないほどボクは強くなってる。


ボクはもう外の世界へ出ても生きていける。


それにアルトが一緒にいてくれるから不安なんてない。


でも…気がかりなことができた。


こうして考える機会をくれたアルトには感謝してる。


アルトが言ってくれなかったら思うだけで考えもしなかったから。


じゃあ、なんで?


なんでアルトはあの本を見てからボクにこの話しをしたの?


ボクの気持ちはもう旅立ちたいってなってる。


でもこの気がかりをハッキリさせないと嫌な感じだよ。

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