第5話 勘違い
(お!あの蔦に付いてる実は色々な薬に使えるぞ。)
((うん。どのくらい採ればいいの?))
(10コもあればいい、腰の革袋に入ればな。)
((うん。))
ボクは下山しながら山菜や野草、あと薬草を採取しながら獣を狩ろうとしていた。
今夜のご飯にね。
グリズリーは不味いらしい。
食べられるモンスターもたくさんいるらしいけど、元々クマのお肉は硬くて匂いがつよいんだって。
(セナ。あれ獣道じゃないか?)
((うん。どっちにいこう?))
(下る方でいいだろう、小型な獲物しか期待できないけど既に山菜と薬草が荷物になってるからな。あまり重い獲物は運べないぞ?)
((うん。もう袋はいっぱいだよ。))
しばらく歩くと小さな草原にでた。
小動物は隠れ棲んでいて魔力も少ないから、感覚を研ぎ澄ませ気配を探る。
((いた。…ウサギ…かな?))
(ウサギの魔獣だな。小さいがツノがある。もっと奥にいる普通のウサギを狙ってるみたいだな。)
やっぱりアルトはスゴい。ボクは奥にいるウサギの気配まで読めなかった。…2匹かぁ。
(どうする?少し荷物になるがアイスニードルで2匹とも狩るか?)
((うん。ボクも同じこと考えてたよ。))
(よし。ニードルは小さいが複数展開もできる魔法だからコントロールに気を付けてな。あと何度も言うが野生の小動物は魔力や気配察知に優れているからな。展開したらすぐに撃て。)
((はい。))
ボクは両脇に手のひらを上に向けアイスニードルを出すとすぐに撃った!
「ギュピィ!」
ウサギは頭に命中して声も出せずに絶命したけど、魔獣のほうはクビのところに当たって頭が落ちた。
(よし。狙いも魔力コントロールも上手くなったな! 普通は大きな魔法を撃てるようになると細かいコントロールが出来なくなる奴が多いが、セナは上手だ。)
「えへへ。 ありがとう。」
今日はアルトにたくさん誉めてもらえてスゴく嬉しいな。
頑張って練習してきてよかった!
(今日はこれで終いにして戻ろう。)
「うん。ボクはじめて戦闘したせいか疲れちゃったよ。」
(狩りとは違う緊張感のせいだろう。)
掘った穴に2ひきの血を落とし、血抜きが終わったら楽に持ち運べるよう細い蔦で縛った。
ちなみにだけど魔獣とモンスターの違いって魔核があるかないかで決まるらしい。
特に獣系だとパッと見ただけじゃわからないよ。
途中で休憩をはさんで下山したボクは住処と見慣れた景色をみてホッとした。
「アルト?ボク汗と土とか草なんかで汚れて気持ち悪いからシャワー浴びるね。」
(おう。ウサギの調理は後でいいだろう。じゃ俺は少し寝ることにする。お疲れさん。)
アルトは訓練のとき以外はボクをいつもとっても気遣ってくれる。
それにアルトと過ごすようになってから全然寂しくなくなった。
本当なら普通に転生?したはずだけど神様の悪戯かな?ボクの中に入ってきて…。
初めは凄く驚いたけど、今は感謝しかない。
ボクは服を脱いでシャワー室に入り、上にあるタンクにウォーターとファイアの魔法をかけた。
タンクの下にたくさん小さく空けた穴からお湯が流れでてくる。
このシャワー室はアルトに教わって作ったんだ。
森に入ったとき大きな果実を見つけたのがきっかけで、中身をくり抜いてタンクにしたの。
あとは教わった魔法で水を入れてファイアで沸かすんだ。
今まで川へ水浴びにいってたから寒いときは大変だったけどアルトのおかげでとっても快適になったよ。
ボクはシャワーで汚れを落としながら体を見下ろし、胸を触る。
「また大きくなってる。…ジャマだなぁ。」
(…はあ!? えっ!? おあ? ちょっ!ちょっとまて!? うわあぁーーー!)
「あー! ちょっとアルト!ダメ!寝ててよ!!恥ずかしいでしょ!?」
(ま、まてまてまて! おま、セナ! お前!女だったのか!?)
「ちょっとダメ!みないで!!」
(え!?見てない! いや、見たけどもう見てない!! って触るな!感触があ!)
「やだやだやだやだなんで起きてるの!? もーーーっ!! エッチ!!」
(そりゃお前! 声がしたからつい! …そのゴメン!!)
(…て、セナお前ボクって…。な、なんで俺は今まで気付かなかったんだ!? 俺は馬鹿か?)
「あ、だってその、お母さんにそうしなさいって…髪も短くしてなさいって…。」
(そ…。 そうか。 あ、ああ。 なるほどな。俺がもし親なら、俺もそう言ってたかもな。 …って、あーーーー!)
「え?なになに??」
(スマン!! 俺、セナのこと男だと思って普通に鍛えてた! キツかったろ?本当にスマン!!!)
「ううん。訓練もなにも全部アルトには感謝してるよ? でもエッチなアルトはキライだよ?」
(あーー! ゴメン本当にゴメン!違うんだ! 勘違いなんだ! いや俺も勘違いなんだ!)
「もうっ!もういいから!恥ずかしいから早く寝て!」
(いやあのスマン。この状態じゃとても眠れん! 目は瞑ってるから何とかして服を着てくれないか?)
「もぉ~。 …わかった。着るから見ないで? 約束だよ?」
(ああもちろんだ。…しかし…別人の体だからだと思っていたが、…今までの違和感はこれだったのか…?。)
ボクは適当に体を拭き濡れた髪もそのままに服を着た。
「アルト?服着たから目を開けていいよ?」
(お、おう。スマンな。 その、なんだ。 鏡とかあるか? 俺…思い返してみてもセナを見たことがなくてな…俺の宿主の姿を見せてくれるか?)
「いいけど…なんか恥ずかしいや。」
(いやスマン。無理にとは言わない。いつか気が向いたらでいいから、頼む。)
「ううん。大丈夫。お母さんが使ってた鏡があるから。」
ボクはお母さんが使ってた部屋へ行き、鏡をだして壁にかけた。
ボクも自分の姿をみるのは久しぶり。
最後に見たのはお母さんが死んじゃってこの鏡をしまうときだったかな。
1年以上ぶりに鏡に映った姿をジッと見る。
身長は少し伸びちゃったかな? 肌は以前より白くなった気がする。
髪は相変わらず薄い茶色で耳も少ししか尖ってない。
顔は少しお母さんに似てきたのかな? 髭も生えてこない。
身体は…以前より太るどころか、お腹まわりが痩せて胸が大きくなってきてる。
手足も細くなってきて毛も生えてこない。
いつも通りで悲しくなるよ。
(おい!凄く可愛いじゃないか!)
「え?」
(こりゃ将来は美人になるな!間違いなく!)
「ええ?…ボクが可愛い?美人?」
(そうさ!ああー俺ってばこんな可愛い女の子にあんな訓練させてたなんて! 本当にゴメン!)
「え?だってボク、髪は茶色だし肌も白くて太ってないし!髭も手足の毛もないんだよ?」
(ああ…。ホビットは女でもズングリしてて毛深いからな。でもセナはハーフで俺は人間だ。人間から見たらセナ、お前は凄く可愛い。)
「…ありがとう。…ボクずっとホビット族と違う姿だったから…受け入れてもらえなくて…。」
(人間なら絶対みんな受け入れるさ!)
「うん。 …うん。」
こうしてボクはなんか恥ずかしいけど産まれて初めて救われた気持ちになり、その日の夜は心から安堵して眠れたように思った。
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