第4話 モンスター

あれから何ヵ月か経った。


実はあのあと色々試した結果、簡単に魔法を使えたよ。


それこそ色々な魔法を。


アルトが言ってた。

ボクには属性の垣根がないんだって。


普通はそれぞれ魔力には色がついてて、魔法使い職でも2種類くらいの属性魔法が使える人がほとんどなんだって。


ボクは無色の魔力のせいなのか、火も、水も、風も、土も、金の魔法も使えた。


だから面白かったからなのかな?


たくさんの魔法を覚えたよ。


アルトにはこれまで魔法以外にも色々と教わったよ。


そして最近は魔法よりも剣の練習をしてる。


アルトが、生きていく為には魔法だけ頑張っても必ず苦しくなるときがくる!って教えてくれたから。


ボクはいままでお父さんが遺した短剣を使ってた。


お父さん普段は弓を使っていたけど護身や接近戦用に持っていた短剣。


弓はお父さんと一緒に谷底へ落ちてしまったから。


どちらにしてもボクは不器用だから弓は使えないけどね。


そしてこの短剣は他の荷物と一緒にお父さんが足を踏み外した?場所にあったんだ。


お父さんと一緒で身長が低く体が小さいボクにはちょうどいい武器なんだ。


いつも狩りにはこの短剣を使ってる。


アルトにもボクに合ってる武器だって誉めてもらえたよ。


ボクはアルトに言われるまま、短剣の先に錘をつけて振るう。


アルトは剣の重心をずらして修練すると刃に力をのせるコツを掴めるって言ってた。


ひたすら剣を振るったよ。


アルトは構えとか型とか教えてくれない。


そんなもの必要ないんだって。


逆に構えや型に剣の可能性が縛られちゃうんだって。


アルトには、ボクがどんな体勢でも剣を振るえるように。


どんな体勢でも次の動作ができるように。


どんな体勢でも逃げられるように。


体の動かし方や足のはこび方を中心に教えてもらった。


そして今日は、ホビット族で狩りの職をしている大人でさえ立ち入らない山奥まできている。


アルトが言うには今のボクなら全然大丈夫なんだって。


…ほんとかな?


(セナ。きちんと魔力と気配は消しておけよ? 野生の獣や魔獣は特に感知能力が優れているからな。)


((うん。 でも魔力と気配の両方を消して山を登るのって大変だよー。))


(ああ。これが普通にできるようになるまでは大変だが、絶対に役立つから頑張れ! 馴れてしまえば楽になるから、今日はその訓練も兼ねているんだぞ?)


((うん。わかった。がんばるよ!))


ちなみにだけどボクは最近アルトと念話で話してる。


前から思ってた、傍からみたら独り言ずっと言ってる変な奴!って誰かにみられてたら嫌だから、アルトに教わって必死に覚えたんだ。


ボクは自分の魔力や気配を消す訓練をするようになったら、逆に周囲の魔力や気配を感知できるようになったよ。


おかげで狩りの成功率が凄く高くなって生活に余裕がでてきた。


アルトにも誉められて嬉しい。


けど、


アルトって凄く厳しい。


でもそれはボクがこれから先も生き抜くために必要なことだからこそ厳しいってわかってる。


でもでも1つ何か成功したり、できるようになると凄く誉めてくれるんだ。


ますます頑張ろうっ!って気になっちゃうんだよね。



そんなこんなで山を登っていると川の流れる音と共に何かの気配を感じる。


でも気配より魔力が強く感じる?


(この気配はモンスターかもな。)


ボクはモンスターって出会ったことも見たこともない。


((…あの。 ボク怖いよ。))


(この程度の魔力しかないモンスターならセナには余裕なはずだ。大丈夫だ。マズいと思ったら魔法を使えばいい。)


((魔法?使っていいの?なら。))


(ただしファイア系は山火事にでもなったら面倒だからダメだぞ? 相手にもよるがウォーターかアイス系なら川の水があるから魔力消費が少なくて済む。)


((はい!))


ボクは魔力と気配をたよりに相手の背後に回った。


大きい。


3メートルくらいの巨躯。


全身クマみたいに毛むくじゃらで肩や背中からツノみたいなトゲが何本も生えてる。


(こりゃモンスター化したグリズリーだ。 背後に回っても油断するなよ? わざと気付いてないフリをしているか、後ろからの防御力に自信があるからかもしれないからな。)


((はい!))


ボクは足元に落ちている石を拾いグリズリーの死角となる左側へそっと投げた。


ガサガサッ


石が草木に当たる音と共に小枝と葉を揺らした瞬間、グリズリーもそっちに気をとられた。


(((今だ!)))


アルトと同時に同じ言葉を心の中で叫んだボクは、グリズリーの右後ろへ突っ込み短剣を振り抜く。


魔力を纏わせた短剣はアルトから教わった、切れ味が増す効果が付加されてグリズリーの右脇腹を軽々と切り裂いた。


グリズリーの右前に躍り出た格好になったボクはそのまま動きを止めずフラッシュボールをグリズリーの顔めがけて撃った。


フラッシュボールとはその名の通り、ただ発光するボールであって攻撃力は0なんだ。


でも当たった瞬間にものすごく光って目眩ましになる。


何より魔力消費が少ないからとっても便利なんだよ。


「グガアァーーー!」


脇腹から内臓が溢れ、目が潰れたグリズリーは無闇矢鱈と手足を振り回して暴れ出した。


(油断するなよ!?ラッキーヒットに気を付けてな?)


グリズリーは振り回したその爪に触れた大木を薙ぎ倒し暴れ回る。


無闇に近づけないと思ったボクは魔力を左手に集中させて氷の槍を作った。


((アイスランス!))


グリズリーの胸の中心へ狙いを定めたアイスランスはボクが思ってた以上の速度でグリズリーの胴体に直径約1メートルの風穴をあけた。


だけに止まらず、その背後の大木や大岩も貫通してアイスランスは上空へ飛んで消えていった。


「え?」


グリズリーは糸の切れた人形のように倒れながらグニャリと振り回してた腕の膂力の反動で捻じ切れた。


(随分と凄いアイスランスだったな…)


「ボク…あんなに大きくてスゴいのはじめて。」


(おいおい。発言が変になってるぞ!? まあ、初の戦闘としては上出来だ! よくやったな!)


「うん。…ありがとう。えへへっ。」


誉められた…今日はいつもより嬉しいな。


(大きさと威力は予想以上だったが、狙いを胴体にしたのは正解だ。)


「うん。あれだけ暴れてたら頭に当てる自信がなかったの。」


(おう。確実に当てられる所を狙ったのも正解だが、奴の頭には魔核があるからな。 頭に当たってたら吹き飛ぶところだった。)


「そっか!モンスターだから魔核があったんだね。」


(ああ。グリズリーの魔核は額の内側にできるからな。奴の魔力だと親指の爪くらいの大きさだろうが魔核に変わりはない。ナイフで抉りだして持って帰ろう。)


「はい。」


ボクはいつも狩りをしていた要領でグリズリーの額を切り魔核を取り出すと川で血を洗い流して下山した。

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