第2話 ホビット?
ボクはある理由で引き篭もっている。
その理由とは…。
自由と平和、酒と食事、何より仲間を愛し、放歌的な暮らしを好む父であるホビット族と、人間族である母の混血種。
それがボクだから。
お父さんの仲間であるホビット族は人間族を含める他種族との交流はするが純血を好む。
人間族であるお母さんを愛したお父さんのことを仲間のホビット族は許さなかった。
ボクが産まれる前のことだから本当のことはわからないけど…。
仲間から迫害を受けていたお父さんはある日の夜、谷底へ落ちて死んじゃった。
そのとき既にボクを身篭もっていたお母さんは、ホビット族の村外れへ逃げるように居を移した。
お母さんは1人でボクを産み、育て、その無理が祟ってか、去年の冬に死んじゃった。
ボクがいなければお父さんは谷底へ落ちなかったかもしれない…。
ボクがいなければお母さんはもっと遠くへ、人間族の住む場所へ戻れたかもしれない…。
ボクがいなければ、お母さんは死ななかったかもしれない…。
ボクは今もお母さんと暮らしていた住処にいる。
混血種のボクは他へ移れると思えない。
混血種のボクはホビット族の特徴が薄い。
混血種のボクは人間族の特徴も薄い。
髪は薄い茶色で太っていない。
耳は少し尖っているけど髭は生えてない。
身長は120センチくらいだけど足の裏の皮は薄く足の毛も生えてないから靴を履かないと外を歩けない。
視力は良いけど不器用だと思う。
こんなボクじゃ純血を好むホビット族には受け入れてもらえない。
でも人間族になら受け入れてもらえるかも?と考えたこともあるよ。
獣人や鳥人。
エルフや小人族。
もちろんホビットも含め幅広い種族と交流をもち、様々な種族との混血種も多く一緒に暮らしていると聞く人間族にならボクも受け入れてもらえると思う。
でも人間界へ行っても…。
どうやって生きていけばいいんだろう?
ボクに何ができるんだろう?
何の取り柄もないボクは何もできずに餓死するんじゃないのかな?
それが怖いんだ。
ボクがここに住んでる理由はもう1つある。
こんなボクにも優しくしてくる人がいるから。
村で雑貨屋をしてるお婆さんだよ。
山で狩った獣を持っていくと服や油、お金なんかと交換してくれるんだよ。
ただ、お婆さんのところへは全身を隠せる大きな外套を羽織って顔が見えないくらい深くフードを被らないといけないんだ。
他の村人に見付かったら大変だからね。
だからお婆さんのところへ行く他は、水汲みと狩り以外ずっと住処に篭もってる。
今もずっとそんな暮らしをしてるけどボクはそれでいいと思ってるよ。
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昨日は1日雨だったけど、今日は朝から良い天気。
朝1番に水汲みついでに釣りをした。
狩りって気分じゃなかったからね。
でもたくさん釣れたから、今日はもう外に出ない。
ゆっくり朝ごはんを食べたボクはお婆さんから貰ったお茶を淹れる。
油に火を入れケトルに注いだ水がお湯になるのを待つ間。
ゆっくりと流れる穏やかな時間。
ボクはウトウトと寝てしまう。
~~~~~~~~~~~~~~~
寝てしまったボクは夢を見る。
それはある戦士の生き様…。
まだ幼少の頃、両親に連れられて中規模のキャラバン隊に参加して大陸を横断していた。
父親は戦闘職に就いていて仲間である魔法使いの男とその家族、もう1人の仲間の弓士と共にキャラバン隊の護衛の任へ就くことで、格安で家族たちを参加させてもらっていた。
それまで順調に移動していた隊であったが、ある日突然の砂嵐と共に現れた虎のような魔獣の集団に襲われた。
魔獣とは強い魔力をもつ獣のこと。
魔力をもつ獣は普通より体が大きかったり変形していたりして、その魔力で火を吐いたり魔法のような攻撃をしてくるとても恐い獣なんだ。
その集団の最奥には虎のような頭が3つある巨大な魔獣が見下ろすように佇んでいた。
そいつが集団のリーダーなんだろう。
そのリーダーが大きく吠えると魔獣たちは隊を囲んで一斉に攻撃をした。
大小様々な馬車や荷車で編成されたキャラバン隊は70人くらい。
そのうち戦闘ができる護衛は20人くらい。
普通このくらいの人数がいれば大抵の魔獣やモンスターは撃退できる。
だけどもそれに対して魔獣は30頭くらい。
その魔獣1頭を倒すのに10人くらいで挑まなければ無理そう。
もう、全滅が決まっているようなもの。
…。
そして数分後、キャラバン隊は全滅した。
魔獣たちは人間を食い散らかして去っていった。
残ったのは馬車や荷物だった残骸と、…散らばる骨と肉片。
そしていたる所に点在する血溜まり…。
その中で蠢くものがあった。
無惨な亡骸が動いたと思ったら、その下から1人の人間が這い出てきた。
その人はボロボロの血だらけになっていたが仲間の魔法使いだった。
その魔法使いは気絶した少年を抱いていた。
キャラバン隊の護衛をしていた魔法使いは自分の家族を優先して守ることはできない。
最後の最後に近くにいた子供を守ったら、それがたまたま少年だったみたい。
少年の両親は見るも無惨な姿になり絶命していた。
母親なんてほぼ原形をとどめていなかった。
身につけていた首飾りでやっと判別できたみたい。
少年は母親の首飾りを身につけ、父親が愛用していた柄に青く光る魔鉱石が埋め込まれた剣を背負い魔法使いとその場から逃げるように立ち去った。
できれば死者を埋葬したかったんだけど血の匂いに誘われて他の魔獣や獣が集まってきたら、魔力が尽きて血だらけの魔法使いと少年では防ぎようも逃げようもないから。
そして少年は魔法使いに育てられ、魔法を習い、父親の剣で修練を重ねて大人になった。
充分に力を増した少年…青年は仲間を集め頭が3つある虎のような大型魔獣…モンスターを探し出し、討伐した。
このとき、初めて青年は泣いた。
それからというもの青年はモンスターを討伐する集団に所属して、旅をしながら様々な魔獣やモンスターを討伐して功績を上げていった。
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