転生?したらホビット?でした

やっきー

第1話 エピローグ

俺は今、人生最大の窮地に立っている。


正確には仰向けに転がっているのだがそこは言葉の綾だ。


片足は折れ、立ち上がることさえ儘ならない程に疲弊している俺は、それでも諦めずに自分で出せる中で最強となる魔法を放つために体内で魔力を高めている。


俺…いや俺達は20人程でチームを組むモンスターを狩る集団だ。


普段からチームで旅をしながらモンスターを狩って解体し、食べられる部位は食べて売れる部位は売ることで生計を立てている。


相手となるモンスターは旅先で遭遇した奴からその土地で討伐依頼が出ている奴らだ。


だが今回の相手は違う。


国が緊急事態に陥り王より発せられた強制的な出動命令だ。


その相手とは自分を神と名乗る竜だ。


元々この竜は人間から竜の里と呼ばれている険しい山脈の標高が高い場所にいた奴らしい。


奴ら竜族は普段人型に姿を変えて過ごし、寿命が長く、力も魔力も強い。


そして高い知識と知能を持ち合わせ、竜の姿へ戻ると更なる力とその強固な鱗による高い防御力を誇る。


奴は里での権力争いに敗れたらしい。


しかしその高い能力を買われて相応の地位に就くことができたのに、奴は邪神に魂を売り契約を交わし凶悪な力を手に入れて里を攻撃したそうだ。


里の長になれなかった逆恨みだ。


里を全滅に追いやってもおさまらない奴は、攻撃の矛先を他種族へと向け暴れ回った。


そして今正に我々人間にその矛先が向いている。


ただでさえ強大な破壊力をもつ竜族が、邪神との契約により何倍にも増したその力で攻撃してくるのだ。


たまったものではない。


この国の軍隊は既に全滅していて、残る戦力といえば我々ハンターくらいだ。


既に人間より力のある種族が全滅しているのだ。


俺達の勝率なんて微々たるものだ。


いや、0%と言っていいだろう。


だが俺達は、何もせずにただ殺られるよりも立ち向かって殺られる道を選んだだけだ。


勝てずとも、足掻いて足掻いて一矢報いてやる。


それすら無理なら奴の鱗に小傷の1つでもつけてやる。


そうチームで一致団結して挑んだはいいが、俺がこうしている間にも仲間は瀕死状態の2人だけになっていた。


あれは中衛のダリと後衛のリッキーだ。


もう奴が尾を一振りしただけで即死だろう。


だが先に言ったとおり俺は諦めていない。


俺の最強魔法を放つ準備ができた。


運が良いと言えるのだろうか?


奴の額には戦闘開始直後に俺がヤケクソでぶん投げた剣が刺さっている。


いや、鱗の隙間に引っ掛かっているだけか?


だがあの剣に魔法が当たりさえすれば、それこそ奴に一矢報いることができるかもしれない。


ただで殺られてやるものか!


あとはチャンスを待つだけだ。


そのチャンスは意外にも早く訪れた。


奴がブレスを放とうとしたのだ。


戦闘開始から何度か見たからわかる。


奴はブレスを放つ直前に動きが止まるのだ。


これは大きな隙だ。


だが奴のその選択は間違っちゃいない。


その隙に誰にどんな攻撃をされてもそう簡単にはダメージを受けないからだ。


その証拠にダリとリッキーは身構えることすらせずに呆然としている。


その眼には諦めと死を覚悟した色が見える。


今だ!


今が最初で最後、最大のチャンスだ!


俺は両の手を奴の額にある剣へと狙いを定めて突き出す!


「うおぉおおっ!極大爆雷魔法っ!」


俺はめいっぱい高めに高めた魔力を込め、これまで生きてきた中でも最大級の魔法を奴の額、青く光る魔鉱石が装飾された剣に向かって行使した。


その魔法は暗雲たちこめる遙か上空から極太の雷撃が奴の脳天に落ち大爆発をおこした。


俺は真っ白な、爆発による消滅の光に包まれる。


俺と奴との距離が近過ぎたのだ。


奴がどうなったかもわからない。


傷の1つでも付けられてたらいい。


仲間がどうなったかもわからない。


刹那の刻でも生き延びてくれてたらいい。


俺の命はここまでだ。


仕方ない。


色々とやり残したこともあるが満足だ。


……ああ…意識が…


さよなら…この世。


初めまして…あ…の……世…。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



…ん?


…………なんだ?


…なんだこりゃ?


俺は…死んだはず? …だよな?


にしても…。


とてもあの世には見えん。


俺の目に映る光景はどこか山奥の田舎住まいのような部屋だ。


それも随分と貧しい。


それにこれは座っているのか?


視界の位置がやたら低い。


にしては家具や雑貨品の高さは丁度いい。


それとも天井が高いのか?…違う。


なんだか違和感がすごい。


更に違和感が増すことに、俺の意思とは関係なく勝手に視線が変わるのだ。


まるで何かの映像を見せつけられているようだ。


映像では湯気が上がるカップを手に取り飲む動作をする。


あ~。


素朴ではあるがうまいお茶だな。


…って…。


なんだ?…なんなんだ?


なんだってんだ!?


「なんだこりゃあーー!?」

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