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 路地裏。

 倒れている。

 ひとり。


「なんで」


 駆け寄って。

 抱き寄せる。


「なんでまた」


 血を拭ってあげようとして。

 返り血ではないことに、気付く。傷。背中とふともも。背中は切られたような傷で、ふとももは、何かが貫通したような。血が。止まらない。


「だめだねわたし。仕事。変な感じ。浮いてるみたい」


「血を止めなきゃ」


「いいよ。このままで。このままがいい」


「無茶言うなよ」


「あなたの腕の中が。いい。ここで。あなたに抱かれてたい」


「なんでまた。今まで一度だってこんなこと」


「あなたのこと。考えてた」


「俺のせいで」


「ちがう。今。あなたのこと。考えてた。あなたが来た。うれしい」


 傷をしばる。


「いいよ。いいの。これでいいから」


「どこがいいんだよ。どこが」


「また、あなたに会えた。あなたの隣にいられる。それでいいの。それだけで」


「ちがう。そんなのは。ちがう。死にたいのは、俺のほうだったのに」


「しにたかったの?」


「死にたかったよ。ずっと。こんな普通の人生、なくなってしまえばいいって。ずっと思ってた。死に場所を探して。路地裏を歩いて。それで。それで」


「わたしがいたんだ、そこに」


 咳き込む。血が、ちょっと飛んだ。


「わたし。正義の味方だから。これは、わたしの仕事」


「何言ってんだよ。意味分からないよ」


「仕事、だから。正義の味方。がんばったよ。わたし。がんばった」


「わかった。わかったから」


「いてて」


「おい動くなってっ」


「雪」


「ああ。頼むから。動かないで。じっと。じっとしてて」


「つめたくて。きもちいい」


「わかった。わかったから」


「ねえ。わたしのこと。好きでいて、くれて。ありがと」


 それだけ言って。

 静かになった。

 雪。風はない。

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