7日目、古民家なんて誰も貸してくれない
オラァッ!
オルウアアアアッ!!
ブンッ!
ブンッ!
スフィーッ。
「……」
クソッタレガァアアアアアアアッ!!
ブンブン……ブンッ!
スフィフィー……スフィッ。
「ちょいちょいちょい」
んだぁ?
オルァアアアアアアアッ!!
ブンッ!
スフィッ。
「あぶねっ!?」
避けんじゃねぇ、コルァ!
「はぁっ!? うわっ、このバカ!」
オォオララララララララララララララララララッ!!
ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンっ!!
スフィフィフィフィフィフィフィフィフィフィフィフィーーッ。
オルァッ!
ブブンッ!!
スポッ。
クルクルクル~~……カンッ……コロコロコロ……。
はぁはぁはぁ……。
クソ。
すっぽ抜けた……。
「……あのさぁ」
んだよ?
「冒頭から力いっぱい……リコーダー振り回して、なにがしたいの?」
ああ?
「って言うか『ブンブン。スフイーッ』で、一体何人の人が、『あぁ、コジカはいま狂ったようにリコーダーを振り回しているんだなぁ』って理解出来たと思う?」
そんなん、読んだ人はみんな分かったでしょ。
「誰一人、分かんねぇわ!」
ええっ!?
察せられるくない?
「られない、られない」
られるって!
ここWEB小説サイトだよ!?
剣と剣のバトルで。
『キンキンキンキン、ガキッ、ギリギリギリ、ヒュッ、スパァッ、ドロリ……ガクッ』
とか書いときゃぁ、読者さんが脳内補完力で迫力ある戦闘シーンを思い描いてくれる、って、そういう場所だよ?
「だぁああっ! だから、そういう事を言うなっつうのに!」
ブンブン、スフィーッ、で。
↓
棒状の何かを振っている。
↓
振り終わりに何か音が漏れ出る。
↓
すなわち、リコーダーの振り終わりに、あの穴から音がしている。
↓
リコーダーを狂ったように振り回す描写だと気付く。 ← 読者イマココ
って言う風に、皆が皆、気付いてくれてるよ。
「いや、それエスパーだわ。『すなわち』からの補完力が凄すぎるでしょ」
普通普通。
「だいたい、ブンブン、スフィーッを『描写』って言わないのよ。こういうのは『ただ擬音を並べてるだけ』って言うの」
はぁぁ。
「なに?」
いや、いつだって時代の先を行く表現者は理解されないものだなぁ、と思って。
「そういうのは、最低限の文章力を身につけてから言いなさい」
田舎で家借りようとした時もそうだったよ。
「ん?」
よそ者のことなんか、だぁーれも理解しようだなんて思っちゃくれない、ってハナシ。
「おおう。この流れでタイトルの話題にもっていこうってのか」
いや、最初っからそのつもりでリコーダー振ってたから。
「どの『つもり』だ」
だって家借りる云々のことを思い出してたら、ハラ立ってきちゃって。
それでコジカの、この怒りを表現するには、狂ったようにリコーダーを振り回すことでしか、表現できないなって思って。
「まぁ、もうリコーダーのことは置いておこう。ってか捨て去ろう。それよりも家のハナシを聞かせてよ。なんで家借りる云々でハラ立つのよ?」
なんで? って、そんなん、誰も『家を貸してくんなかった』からだよ。
「いやいやいや。いま住んでんじゃん。めっちゃイイ感じの古民家借りて、DIYまで好き放題やってんじゃん」
移住5年目。
交渉13軒目。
にして、ようやくね。
「お、おう。それなりに時間は掛かってたんだね。……そっか、就農当初は市営の団地に入居してたんだよね」
ああ。
エレベーター無しの4階にな。
「あー」
部屋までの階段が、ちょうど100段あって、笑ったわ。
「数えたんだ」
最初の夏なんざ、作業場も確保出来なかったから、コンテナに満載したミディトマト、合計80kgくらいを、部屋までその100段ヒィヒィ言いながら昇って、で、袋詰め作業したわ。
「トマト、涼しい所でないと、すぐダメになるもんねぇ」
また翌朝、袋詰めした400袋以上のトマトを持って下りるのが腰と膝にキテねぇ……。
「聴くだけで、身体を痛めそうだよ」
実際に痛めたよ。
病院も行ったよ。
でも続けるしかなかったよ。
それ以外に方法なかったから。
今でこそ笑い話だけど、やってた当時は笑えなかったよ。
いや、シンド過ぎて笑ってはいたけどな。
「農業やる上で、いかに条件の良い家を確保出来るか? はホント死活問題だねぇ」
まぁまだコジカの場合、市営団地4階でも、畑から車で3分の距離だったから『マシ』とも言えるんだよね。
近所で同じように新規就農した人で、畑近くの集落に家を確保出来なかったから、毎日40分かけて山向こうの市街地から車で通ってる、なんて人も居る。
「それはキツイ」
コジカよりだいぶと若い人だけどね。
帰るのが億劫だからか、しょっちゅう車中泊してる。
家に、子ども4人と嫁さんを残したままでね。
「おおーふ」
ま、コレも新規就農&田舎暮らしのリアルのひとつ?
「なんで、田舎の人って、明らかな『空き家』でも貸してくれないのかな?
そりゃ、どこから来たかも分からない余所者をすぐには信用できないからでしょ。
「でも、飛び込み営業みたく、イキナリ『貸してくれー』って凸ってるわけじゃないでしょ?」
勿論。
集落の顔役さんに間に入って貰って。
日程合わせて。
小奇麗な格好して。
手土産もって。
平身低頭して。
で、お断りされる。
その繰り返し。
「結局断るくらいなら、最初から会ってくれなくていいのに」
そこは、間に入った顔役さんの、まさに「顔」を立ててるわけ。
「なる」
ちなみにコジカが相談しに行って、断られる時の常套句は……
・仏壇があるから貸せない
・ワシは貸してもいいんやけど、兄弟(息子)が反対してるから
この2つのどちらかだったね。
「余所者は帰れ! とか言われるわけじゃないんだww」
まぁ、それはさすがにねww
面と向かっては言われない。
でも、心の中ではどう思ってたか。
『めんどくせぇなぁ』くらいは思われてただろうね。
「兄弟(息子)が反対してるって理由も……仏壇は、まぁ、まだ分かるんだけど」
それな。
でもめっちゃ多いよ。
田舎の家は、兄弟姉妹も多いから。
特に、空き家のすぐ側に住んでいる人は、そこの管理を自分がやってるから、まだ貸すことに前向きなんだけど、遠方に引っ越して、年に1回も帰ってこない、草刈りのひとつもしない親類縁者の方がゴチャゴチャ言いがち、っていう、あるあるだね。
「いま『放置空き家』って問題になりつつあるのにね」
そうねぇ。
でも、『自分が元気な間は大丈夫』って思うんだろうねぇ。
しかも、近所に住んでなきゃ、普段は見てないし忘れてるから、家が記憶の中のまんまで維持されてる、と思ってんだろうねぇ。
「こうやって聴いてると、いま、お借りしてる古民家なんか、ホントよく借りられたねぇ」
だね。
時間掛かった甲斐あって、というか。
いまお借りしてる古民家は、理想を上回る上物だよ。
「どうやって借りたの? そこが一番知りたいわ」
向こうさんから、おハナシを持ち掛けて下さったのよ。
「へ?」
地域の役員会で顔見知りの方でね。
そこまで交流があるわけではなかったんだけど。
前々から気にはして下さってたらしくて。
ご自身も、実はこの土地の出身ではなく、奥様の地元に越して来られた方でね。
だからってわけじゃないけど、余所者の苦労は知っている、と。
「はぁああ~。なるほどね。でも、だったら、もっと早くに声を掛けてくだされば良かったのに」
それはタイミングってやつでしょ。
かつ。
他人の『信用を得る』ってのは、それだけ時間が掛かるってことじゃない?
「おおお。コジカが、コジカが眩しいよ!」
ふふふ。
崇め奉ってもいいのよ?
「調子にのんな。リコーダー・バカが」
とにかくまぁ、いまこうして、ようやく心穏やかに『家』のことを語れるようになってるけど。
ここまで来るのには、やっぱそれなりに、色々思い出してリコーダー振り回すくらいには苦労もしましたよ、ってハナシ。
「リコーダーは理解できないけどね。誰も」
素敵な古民家カフェ風♪
そんな理想的な家を、移住と同時にイキナリ手に入れようなんて、そんなんはまぁ所詮は儚い夢芝居よ。
あ。
でもいっこだけ、移住と同時に理想的な家を手に入れる方法あるわ。
「え? なになに?」
金。
「は?」
唸るほどに『金』があれば、全てをすっ飛ばして、欲しいものを手に入れられる。
「ミ、ミもフタもないな……でもまぁ、そんなことしたら、もれなく村八分的な扱いがセットでついてくるんじゃない」
そうなったら、そうなったで、今度は村の人間、ひとりひとりの頬を札束で叩けばいいんだよ。
みんな、喜んで頬を差し出してくるよ、きっと。
「いや、ふざけんな。そんな欲まみれな田舎、もはや暮らしたくないわ」
じゃ、いっしょにリコーダー振り回そう。
ほら。
ブンッ!
スフィーッ。
「1人で死ぬまでやってなさい」
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