第9話 ウォルチタウアーの策略

 道路脇でのたうち回る暗殺者。

 ライセンスは車から降り、歩み寄る。

 ブリウスはそのままクリシアを抱きしめ事態を飲み込もうとした。


 ライセンスは男の首根っこを掴み、ショットガンの銃口をあてがった。

「言え。誰の命令だ?」

「た、頼む……殺さないでくれ」

「言え。誰が命じた?」

「俺たちがバカだった……あ、あんたを殺そうなんて……知ってる、あんたはあの伝説の……」

 銃口をずらし茂みの中に一発撃ち込む。

 喚き散らす黒レザーの男。

「あーーっ! やめてくれーーっ!」

「ウォルチタウアーだろう?」

「……そ、そうだ、奴が」


 ライセンスは銃身を振り下ろし、捨てた。

 男は拳で頬を殴られそのまま気を失った……。



 ゆっくりと近づくブリウス。

 ライセンスのやりきれない眼差し。

 しばらく黙ったまま二人は立ち尽くした。


「……ライセンス、怪我は?」

「俺のことなら……。彼女の方は?」

「怖がってたが、もう大丈夫だ」

「そうか。よかった」


 風が冷たく頬を吹きつけた。

 そして遠くから聞こえるパトカーのサイレン。

「……さっきあんたは、『俺はお前を騙していた』と」

「ああ。ブリウス。全てを話そう……」


 ****


 その頃デスプリンス刑務所の地下室では――。


「……アーロン、よせよ……冗談だろ?」

「お前を信用した俺がバカだった……」


 ウォルチタウアーはトミーに銃を突きつけた。

 彼らの前には口を開いたスーツケース。

 しかし入っていたのは日記。

 ダグラス・ステイヤーのものだろう、旅日記、手記諸々。そして数冊の本だった。

 トミーは苦し紛れに手を伸ばし、中の一冊を掴む。


「わ、わかったぞ、アーロン、きっと金の在り処が書いてあるんだ! それか宝の地図」

「いい加減にしろ。もう付き合いきれん」

「ほ、ほら、〝森へ行ったのは……〟」

 次の瞬間トミーは殴られ、鼻血を飛ばして床に伸びた……。


 ****


 ライセンスは全てを打ち明けた。


 ――ウォルチタウアーはブリウスを眠らせ、尋問した。ジャックが奪った金の在り処を訊き出すために。用意されたティーカップには自白剤入りの紅茶。ブリウスはそれを飲まなかった。ウォルチタウアーは麻酔弾で彼を眠らせたが、その後の催眠での自白も叶わなかった。

 そもそも何も知らないブリウスから漏れる話などないのだが。ウォルチタウアーは次に囚人のライセンスに話を持ちかける。ブリウスと共に脱獄し、彼の動向を探れと。それはライセンスの自由と引き換えだった。拒否すればその場で殺された。ライセンスは引き受け、その首には発信機が埋め込まれた。彼は実行する――が、結局裏切られた。全てはウォルチタウアーの策略だったのだ――。



「……というわけだ。……済まなかった」

 ライセンスは声を震わせ、謝った。

 ブリウスは困惑したが責める気は起きなかった。


「あんたは捨て身で俺たちを守ってくれた。命の恩人だよ」

「俺はただ、外へ出たかっただけなんだ……ほんのひと時でも」

 ブリウスは煙草を咥えライセンスにもすすめた。

「信じるさ」

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