第10話 ありのままの海へ想いを解く

 かくして、ウォルチタウアーは職権濫用、マフィアとの癒着、殺人容疑で捕まり、見張る側から見張られる側になった。

 地下室で伸びていたトミー・フェラーリはかつての罪状を突きつけられ、手錠を掛けられた。


 ライセンス――彼はかつて〝 LICENSE TO KILL = 殺害許可証 〟の異名を持つ一流の殺し屋だった。

 獄中でもその腕は衰えてはいなかった。

 手術で首の発信機は取り除かれた。

 この一件で彼の夢は儚く散ったが、代わりにかけがえのない友を得た。

 彼は再び本を取り、そこにいる価値を見出そうとした。



「……だいたい九年も前に奪われた金を取り戻そうなんて……どうかしてる。なあ、ライセンス」

「ウォルチタウアーはナピスの元幹部で闇が深い」

「どうでもいい。その執念に笑っちまう」

「ああ。金は人を狂わせる」

「ジャックは悪党のレッテルを貼られ、確かに盗賊として生きた。だがそれは不条理な世を正すためだ。私欲ではない。いつも誰かのために。彼は聖者だった……」


 ブリウスは目を閉じ、遠くの海を思い浮かべた……。



 ****



 海を見つめ、クリシアは想いを解き放った。

 ありのままの海、それは美しかった。

 それは雄大で区切りがなかった。

 それは素朴で飾りがなかった。

 それは無言で真実に満ちていた。

 それは光り輝いていた。

 それは生命、どこまでもありのままの海だった。



 車を走らせる。

 バックシートにはギターケース。

 ラジオからR.J.ソローの曲が流れる。

 ブリウスとの思い出が巻き上がる。

 また冬が来る。

 涙を拭き、クリシアはしっかりと前へ進んだ……。



 END




 ****




 次回、〝もうひとつのENDING〟でラストです。

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