第8話 風が吠え、二人の暗殺者が迫る

 車は再び国道へ。

 走り始めて十五分、後ろのライセンスは何やら落ち着かない。

 ブリウスはミラーで彼と目を合わせる。

「窮屈だろ? ずっと前かがみで。我慢できるかい?」

「うむ。大丈夫だが……どうも背中に硬いものが当たる」

「シートもヘタってるからな。十年も乗りゃ」

「しかしよく走るじゃないか。中も意外に広いしいい車だ」

「もともとジャックのオースチンだった……」

「……つらかったな」

「ああ……」


 グッとハンドルを握るブリウス。

 クリシアは深く息を吐き、少し窓を開けた。

 湿った空気が風に紛れる。

 景色は淡々と流れゆく。



 流れゆく景色を見つめながらライセンスはブリウスの肩に手を。

「……この方向は南だブリウス。まさか、デスプリンスへ?」

 コクリと頷く。そして、

「あんたには申し訳ないが……俺は戻る。やり直すよ。今はまだ罰を受ける。ここで逃げたら、俺たちは一生表通りを歩けない……」

 ブリウスはちらりとクリシアを見た。

「それでいいだろう?」


 わかっていた。複雑だったがやはり逃げたくない。

 陽の当たる道を歩くために――クリシアにはブリウスの真剣な思いが伝わっていた。


 彼女は頷き、ただ微笑んだ。

 ブリウスはライセンスに言った。

「もうすぐ駅が見えてくる。でなくとも何処でも好きな所であんたを降ろすよ。言ってくれ。俺はあんたを助けたい」

「ブリウス……お前は」

 ライセンスは思わず言葉に詰まった。

「お前は正直で誠実な男だ。勇気もある」

「ハッ、何だよそんな」


 そのまましばらく沈黙が続いた。

 ブリウスは一つ訊ねてみた。

「ライセンス。脱獄はあまりに手際がよかった。誰か協力者がいるのでは?」

「俺は……お前を騙していた」

「えっ?!」


 その時、風が唸り、彼らの両側に黒い影が迫った!

 二台のオートバイ、黒いレザーの男たちがショットガンを振りかざした。


「な、何なの?! この人たち!」

 クリシアは叫んだ。

 左側の男はサングラス越しにニヤリと笑い、発砲した。


 轟く銃声、弾丸はサイドボディを貫き、バックシートにめり込んだ。

「伏せるんだクリシア!」


 ブリウスは思いきりアクセルを踏み込んだ。

 だが男たちは猛スピードで追い上げる。ピタリと離れない。

 対向車の何台かがクラクションを響かせた。

 右側の男が嘲笑うかのようにフェンダーミラーを撃ち抜いた。 


 突然ライセンスが声を張り上げる。

「ブリウス! もっと左へ寄せるんだ!」

「えっ?」

「ここはいつか弁償する!」と言うと、ライセンスは左後方の窓を叩き割り、身を乗り出した。

 そして男の銃を奪いその首をへし折った。


 即死。……男はバイクもろとも鉄柱に激突した。

 ライセンスは身を反らし、奪った銃で右側のもう一人を狙う。

 肩を撃たれたその男も転倒し、路上に叩きつけられた。


 それはまさに一瞬の出来事。

 決死の攻防だった……。

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