第4話 クリシア・パインド

 次の日の朝早く二人は貨物列車に飛び乗った。

 民家で盗んだ服を着、パンをかじった。

 流れる景色を眺めながらしばらく黙っていた。


 ライセンスがブリウスに訊いた。

「どこまで行く?」

「ヘヴンズフィールド。クリシアがいるんだ。彼女を連れてどこか遠くへ逃げる」

 ライセンスは鉄下駄のような顎を突き出し頷いた。

 ブリウスが返す。

「あんたは? どこへ?」

「……あ? ああ、そうだな。俺にはアテがない。さてどうするかな。その町で、俺も降りることにする」

「二人だと、何かと面倒だろ?」

「いや。二人だから何かとうまくいくんだ」

「そうか……」

「ここまでは俺が先導した。ここから先はお前さんに頼む。いいかい?」

 ライセンスは水の入った瓶をブリウスに渡した。

「ブリウスよ。うまく逃げきろうじゃないか」

「ああ。そうしよう」


 ****


「マルコさん、明日から三日間お休みもらえないかな?」

 クリシアはダイナーでウェイトレスをしている。

 店長のマルコはシフト表を指し、目を細めた。

「……そうか。何とかしよう」

「ごめんなさい……急に」

「いや、いいんだ大丈夫。子供たちも手伝ってくれるし、ゆっくり休めよ」

 少し間を置いて、マルコはちらりとクリシアの表情を窺った。

「まさか……会いに行くのか? ブリウスに」

「………」

「今は危険だと聞いていたが」

「……でも平気、心配しないで。何も起きないわ」


 ****


 クリシアはもう我慢の限界だった。

 ブリウスは危険だから会いに来るなと言った。

「ジャックはある組織の残党に追われていた。今度やってきたウォルチタウアーもその一味だった。そのうち気付かれる。だから今後、面会は無しだ。手紙だけにしよう……」


 それから半年、慣れたつもりでも会えない寂しさはどんなものでも他の誰でも埋められない。



 クリシアはブリウスを心から愛していた。

 二人の絆は強く、永遠だ。

 いつもそばにいる、たとえ何があっても待っていると誓い合った。

 ブリウスが捕まったことで兄のジャックを恨んだりしたが、虚しくなるばかりだった。

 ジャックはもう本当にこの世にはいないのだ。


 ジャックは優しかった。

 兄として、時には父親として彼女を守り育てた。

 そこには温かい眼差しがあった。慈しみと悲しみがあった。

 クリシアにとってジャックはかけがえのない限りなく大きな存在だった。

 今は楽しかった思い出だけが頼りだ。



 クリシアは明日、ブリウスに会いに行くつもりだ。

 差し入れに何を作って持っていくか、クリシアは黒髪を梳かしベッドに横になり、クッキングブックを広げた。

 そしてふと気がつくと電話が鳴っていた。


《元気かい? クリシア。旅に出るぞ》

 それはハスキーなブリウスの声。

「ブリウス!」

《嬉しいよクリシア。今、外からかけてる》

「え?! ……どうして?」

《話は後にしよう。時間がない。必要なものをバックに詰め込んで〝pony-boysポニー・ボーイズ〟に来てくれ》

「ちょっと、待って」

《急いで町を出たいんだ。頼む。……夜は冷えるから重ね着した方がいい。気をつけてな》

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