第3話 抜け出す道があるはずだ
ブリウスは言った。
「波乱続きでね。まともな仕事でもありゃ、また違ったかもな」
「政治が悪いのさ。世の中この貧富の差は何だ? 政治家にとっちゃ票を取ることが改革だ。真の目的を果たしていない。立っている場所や立たされている理由を理解していない。銭を集め私腹を肥やす。奴らは大抵がペテン師なのさ」
嘆くでもなくライセンスは淡々と続けた。
「何処へ向かっているのか、誰が導いてくれるのか、行き過ぎてしまったのか、先は見えない。闇に産み落とされ、這うように彷徨いながら死ぬべき場所を探し続ける。結局それぞれの立場を守るしかない。だが人間というものが皆、善魂のもとに生かされているとするなら……」
ブリウスはじっと耳を澄ましている。
「慈悲に満ちた時間、一つになる瞬間をより多く、つくることだ」
そう言ってライセンスは両掌を合わせた。
一つ訊いてみる。
「〝死ぬべき場所〟とは?」
少し間を置いて、ライセンスは呟くように答えた。
「……ここではない」
****
夜になり、看守の見廻りも終わった。
張り詰める空気。ブリウスは身を屈めた。
息を殺し、鉄格子の扉を閉めた。
ライセンスの後に続き廊下を這って進んだ。
並ぶ他の牢は静かでまるでひと気を感じなかった。
――まさか……〝脱獄〟など!
ブリウスは最初信じられなかった。
ライセンスは随分と前から計画していたという……この鉄壁のデスプリンスからの脱走を。
――できるわけがない! しかし今こうして牢から出ている。
気は確かだ。どれほどの罪か……捕まれば刑期も延びる。それとも射殺されるか……。
だがもう戻れない。
ブリウスは必死にライセンスの後について行った。
クリシアに会いたい一心で迷いを掻き消した。
――クリシアを連れて遠くへ……遠くへ逃げよう……生まれ変わろう……もう充分、罪は償った……。
監視カメラの死角を狙い、闇に溶け込む。
排水溝の蓋をこじ開ける手際のいいライセンス。
平然と突き進む彼の背に怖ろしささえ感じながらも、その目の奥の訴えにブリウスは強く引き寄せられた――それは自由……〝自由〟。
二人は地下水路を走った。
ずぶ濡れで、懸命に。
息も絶え絶え重く覆い被さる洞を抜けると、突如風が唸り始めた。
そして立ち上がった二人の遥か向こうに見張塔が黒く聳えていた。
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