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『公孫樹子爵夫人』(抜粋)
3(の最後の段落)
床の間には、白百合を二本挿した花瓶と、朱の唇と着物の金箔が美麗な舞妓の人形との後ろに、雲煙飛動な「
4
磨きのかかった品のよい
「
「もう、色事には飽きたのかね。すっかり、風流人ぶっているじゃないか。惚れて通えば千里も一里の男だったろうに、色遊びも年貢の納め時かね」
「光子が欲しいというから、譲ってもらったんだ。光子がここに飾りたいというから、ここに飾ったんだ」
「はあ、光子さんが。あれだけの器量の持ち主だから、いくら好色一代男の
散々からかわれた弓木は、これ以上は御免だとばかりに、話頭を転じた。
「きみには、あれがどういう画に見える?」
「風流人的に言えば、霊妙かつ
「そうかね」
「どうだ。俺に貸してくれないか?」
「それは御免だ」
平生のような会話をしていると、光子が部屋に入ってきた。
「これは光子さん。ボオイ・フレンドをちと拝借させていただいてますぜ」
岩嵜のその言葉に会釈だけで済ませて、光子は向こうの部屋へと行ってしまった。
「チェッ。
あえて光子に聞こえるように怒鳴ったあと、岩嵜は急に身を乗り出して、声をひそめた。
「光子さんには、悪いうわさが二、三はあるぜ。そろそろ手を切った方がいい。野口が言うには、
「野口はもっと何か言ってなかったか?」
弓木もまた声をひそめて、そう
「なんでも、お前の所に来る前に、川瀬の奴が一文無しにさせられたらしい。文科の
「道理でどこにも見なくなったわけだ」
「でも、お前は惚れている。それを止められない。困ったものだ」
それは事実だった。光子に近づきすぎることの危険を、弓木は承知していた。
事実、あの楊柳観音の画は譲ってもらったのではない。
「友人として一応忠告しておこう。では失敬。あっちの部屋でランデブーに
岩嵜はコップ半分にウヰスキーを残したまま去ってしまった。
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