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カンバスは下絵が剥がれるかと思うほど、軽佻浮薄ともいえる
「あなたはもう四十くらいですか」
「なんで、そんなことを
鹿島は、考えを巡らせながら、この女性の娘のことを思った。彼女が、年が熟れたときには、この母と相似の
「わたしは、テクニックは達者ですのよ。あなたの好きなようにしていいですし、望むことをしてあげられますけれど……それでも嫌でしょうか」
「いえ……そういう問題ではないのです」
「では、どのような足かせがあるのでしょう。わたしに夫がいるという、それだけの理由でしょうか」
「もちろん、それだけの理由です」
この女性と身体的な関係を持ってしまえば、
「絵が完成したその日なら、抱いてもかまいません」
「それは、いつくらいになるのでしょう」
「いつかは分かりません。分かっているのは、いつかは絵が完成するだろうということです」
「何度も言いますけれど、わたしは、カメレオンのような要領で、あなたに合わせられますよ」
このやりとりのなかで、鹿島は、自分の技術を侮られている気分がして、不快を覚えていた。もうすっかり退役しているとはいえ、銃の構え方だけではなく、持ち方も、照準の合わせ方も、目標へ発砲する術も、身体に染みこんでいる。あれだけ放蕩を尽くしたのだから、いくらでも
鹿島は目を
「寒いでしょう」
「ええ、寒くてしようがありません」
「もう帰った方がよくはありませんか」
「どうしても、ここに入ってはいけませんか」
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