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月から静寂が沈んできた夜、部屋の灯りを消し、月光と白雪の明かりを頼りに手淫をした鹿島は、だれも起こさないようにそっと障子を開けて、寒風を
色を重ねていくうちに、求めていた色は遠ざかり消失し、
しかし、眠気が背をさすってくれることはなかった。身体に温もりが廻らず、手淫に使用した指はことさら冷たくなっていた。夢のなかでも手淫をしているかもしれない。誰の手で?――これ以上のことを考えるのを、鹿島は止めた。代わりに彼女のことを想像した。彼女の
* * *
中庭を廻る廊下を
この
「起こしてしまいましたか」――間違いなく、
「向こうから草履の音が聞こえたものですから」
鹿島は仰向けになったまま深呼吸をし、手淫の痕跡がないかどうかを確かめた。その名残はもう、まだ冷えている指にしか感じられることはなかった。
「なにか、自分に御用がありましたか」
「……なぜ、そう思うのです」
「こちらの方には、自分しかいませんから」
しばらくは、月の静けさしか聞こえてこなかった。凍えついた
「あなたは、
彼女の母は
「あとどれくらいで、絵は完成しそうですか」
鹿島は、それには答えなかった。完成まであと、どれくらいかかることだろう。当初の予定とは反して、ぐずぐずとここに居残ってしまっている。この
「完成する前に、一度だけ、抱いてくれませんか」
この切実な頼みを――彼女の母の疼きを、断れる立場にいないのは明白だった。鹿島は、絵の立てかけられている向こうの部屋の方を見つめながら、この実際的な問題について考えを巡らせようとした。
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