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鹿島はカンバスをひとつ調達した。そして1カ月のあいだ、或る寺の
辺りが暗くなってくると、鹿島は絵を描くのをやめた。庫裏から出て境内を鳥居の方へと真っ直ぐに歩き、道路を横切って右に曲がった。くすんできた焦茶色のコートの襟に首を埋めながら、ようやく仮の色を置く段階へ進んだことに少なからず満足を覚えていた。
それは、寂寞のエナメルを
その絵は、
余白が見られないくらいの一面の桜並木。鹿島はこの絵を愛していた。
こちらに来て、最初に入った食事処を探す。が、どこを歩いても見つからない。探し疲れて意気が
季節外れの
銅の花瓶はがらんどうだった。黄水仙は挿さっていなかった。思えばいまは春ではない。畳の上に寝転んで、天井に、霊の顔を探そうとしてみる。
一冊の本を丁寧に読んでいる鹿島を、夢を見ている鹿島が
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