8
由紀は、地球儀を弄くる子供が日付変更線で遊ぶような調子で、「ねえ。わたしは、いつでもいいのよ」と言った。
雨の日は退屈だと、鹿島は思い続けてきた。しかし、互いの肉体に、様々な液体を塗りつけあう営為に誘うには、適当な天候であると、灯夏との密会を重ねるにつれて思うようになった。
部屋干しされた洗濯物のなかには、もちろん、由紀の下着があり、それは鹿島の下着と、露悪的な配色で混交しながら垂れている。
鹿島は、目線を詩集に戻した。
――――――
愛を紡ぐふたり、その愛の愚かさ
強盗がものを盗む理屈の方が
尊敬に値する
愛よ、水面で入射角をかえよ
愛よ、日没とともにされ
暖炉にいれる薪
薪がなければ、炎は消える
薪を愛せ
薪と紡げ、愛を
薪を抱いてベッドに入り
薪とともに踊りあかせ
愛を紡ぐふたり、その愛の愚かさ
金持ちが見栄をはるときの口ぶりの方が
尊敬に値する
――――――
「だれが書いた本?」と、由紀は、机の向こうから問うた。その栗色に近い髪の毛は、なぜか濡れていた。
鹿島は素っ気なく、「カレン・オー」――そして、本の裏を見て、「オランダの詩人」と答えた。
由紀と灯夏だと、どちらが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます