由紀は、地球儀を弄くる子供が日付変更線で遊ぶような調子で、「ねえ。わたしは、いつでもいいのよ」と言った。


 雨の日は退屈だと、鹿島は思い続けてきた。しかし、互いの肉体に、様々な液体を塗りつけあう営為に誘うには、適当な天候であると、灯夏との密会を重ねるにつれて思うようになった。


 部屋干しされた洗濯物のなかには、もちろん、由紀の下着があり、それは鹿島の下着と、露悪的な配色で混交しながら垂れている。


 鹿島は、目線を詩集に戻した。


   ――――――


 愛を紡ぐふたり、その愛の愚かさ

 強盗がものを盗む理屈の方が

 尊敬に値する


 愛よ、水面で入射角をかえよ

 愛よ、日没とともにされ


 暖炉にいれる薪

 薪がなければ、炎は消える


 薪を愛せ

 薪と紡げ、愛を

 

 薪を抱いてベッドに入り

 薪とともに踊りあかせ


 愛を紡ぐふたり、その愛の愚かさ

 金持ちが見栄をはるときの口ぶりの方が

 尊敬に値する


   ――――――


「だれが書いた本?」と、由紀は、机の向こうから問うた。その栗色に近い髪の毛は、なぜか濡れていた。


 鹿島は素っ気なく、「カレン・オー」――そして、本の裏を見て、「オランダの詩人」と答えた。


 由紀と灯夏だと、どちらがたきぎなのだろうと、鹿島は考えてみた。そして、「きっと、どちらともなのだろう」と結論づけた。

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