5
グロテスクな路線図に目を走らせている、鹿島のシャツの
灯夏は鹿島の首に手を回し、口づけをした。鹿島は、緯度と経度の交差点から少し外れたところにいるような感覚がした。そして、落馬したときのような安心感をおぼえた。それは、樹液に集まる昆虫を一網打尽にする麦わら帽をかぶった子供が、大人になってからその経験を思いだすときのような。一致からズレへと転換する愉楽。
「退屈なときに路線図を見るような男は、きっと、地球儀を左に回し続けるわ。そうでしょう?」
そう、灯夏は言って、黒色の日傘を広げた。
「逆らいの遊戯は、あわれだわ」
そして、ふたりは喫茶店に入った。
「受精みたい」と、灯夏は言った。鹿島は、あの砂浜での灯夏の
「長い髪の女は好きかしら?」
右手の甲にほほを乗せた灯夏の姿は、油絵のモチーフから一番遠いところにあるものだった。
「似合ってるよ」
林檎の皮を剥くときのような調子で、鹿島は応じた。
「うそよ。だって、あなたは背中に口づけをしたいと思っているのだから」
「こんなところで、そういうことを言うものじゃない」
「あら、どうして? なんなら、いまここで始めてもいいのよ?」
それはからかいに似た、からかいとはべつのものだった。灯夏は、右のヒールを脱いで、鹿島をかわいがってみせた。
「このあと、どうしましょうか」
「予定どおり、神社へ行こう」
「いいわよ」と言って、灯夏は右肩にかかった髪を後ろにはらった。そして、蔦を斧で切るときのように笑った。
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