第58話 オカンに関わる人々 ~side・地球~
件の三人が異世界に渡り、その映像が配信された。
世間の反応は凄まじく、一日で再生回数が億を越え、ネットの板は騒然となり、日本はダンジョンフィーバーで海外からの渡航者が激増する。
一般人による人海戦術でダンジョンが容易く最下層まで踏破されるようになり、ドラゴンの裁定の間は大盛況。
昼夜問わず暴れるドラゴンの歓喜に満ちた雄叫びが、ダンジョン最下層に響き渡っている今日この頃である。
だが、増えた人々により最下層踏破が楽になっただけであって、実力の伴わない人々はドラゴンの一撫でにより吹っ飛ばされまくっていた。
まだまだ力が足りない。
その余波は、ドラゴンに認められた踏破者である自衛隊系探索者にも向けられている。
「だから何かあるんだろ? ドラゴンに認められる条件とか、アイテムとかさ。自衛隊で独占せずに、一般にも公開しろよ、卑怯だろ?」
ダンジョン管理に精を出す自衛官を捕まえては不躾な質問や暴言を吐く、にわか探索者達。
自衛官らは、うんざりとした顔を見合せ、彼等を修練場へと案内する。
修練場は、武術や魔法を駆使して手合わせする人々の熱気に満ち溢れ、その真剣なやり取りに、にわか探索者どもが思わず息を呑む。
「都合の良い条件やアイテムなどありません。我々も上位探索者も、日々精進を重ね、ようようドラゴン様に認めていただけたのです」
案内してきた自衛官は上着を脱ぎ、修練場の監視をしていた自衛官に軽く手を振る。
それに応じた自衛官らが修練場の中央にでると、周囲でやり合っていた探索者らが一斉に場所を開けた。
「うほっ、自衛官の組み合いか。久々だな」
「だなぁ。滅多に見られないぞ。配信するか?」
「やめとけ、垢バンされたあげく、ここに入れなくなるからww」
クスクス笑いながら観戦ムードな探索者ら。
ダンジョン内でも各種施設は国の管理下にあり、無断撮影や配信は禁止されている。
修練場を使用するような上位探索者ならば、そういったルールも熟知していた。
場の雰囲気に圧され、にわか探索者らはいたたまれなくなる。周囲の探索者達から感じる貫禄と余裕。そして自衛官らに一目おいているのがありありと分かる雰囲気。
自分達の場違い感が浮き彫りだ。
そんな中、自衛官らの組み合いが始まった。
御互いに間合いを取りながら、瞬時に攻め込む。体捌きからして、すでに人間の限界を越えた動き。残像すら捉え難いスピード。
交差しては離れ、辛うじて見えるのは足を着いた瞬間のみ。次には消え、再び交差し、凄まじい殴打の連続。鋭く響く攻防の音しか、にわか探索者達には聞こえない。
だが、周囲は違ったようだ。
「今の見たか? 手刀を脇で受けたぞっ、半端無ぇっ」
「いやいや、でもそこを支点にされて蹴り食らったべ。あれは流すべきだったんじゃ?」
「どうだろう。流したら体勢崩れるからなぁ。先手取られて不利になったかも」
見えている?
周囲で歓声を上げている人々には、あの化け物地味た動きが見えているようだ。
にわか探索者達は背筋が凍り付いた。
そして組み合っている自衛官らが大きく間合いを開ける。
途端に歓声が度合いを増し、修練場を震わせた。何事かと狼狽えたにわか達の眼に、魔力を迸らせた二人の自衛官が映る。
自衛官の一人が両手に風を起こし、それを相手に放った。眼に見える風の刃。
疾風のごとき風の刃を相手は水の膜で受け止める。水を風の刃が突き抜けたと思った瞬間、水の膜は氷となり、風の刃を霧散させた。
しかし次には渦を巻く蛇のような炎が氷に巻き付き溶かしたかと思うと、水に戻った氷は炎の蛇を包み、泡立つ球体の中で蛇は消え失せた。
うおおぉぉっ、と大歓声が修練場に響き渡る。
ド派手な魔法の攻防。
風の刃は氷で弾けるのか。氷は炎で溶かせて、炎は水で消せる。
ふむふむと興奮気味に眺めていたにわか探索者達は、ふと自衛官の意図に気付き、愕然とした。
彼等はただ組み合っている訳ではない。周囲に魔法の理を示しながら闘っているのだ。
そして複数のファイアーボールが修練場を飛び交うが、さらに出された複数のアイスランスによって、全て打ち落とされる。
魔法に込められた魔力や練度の差で、理が打ち砕かれるのも実演していた。
炎は氷を溶かすが、火は氷に負ける。
そういった法則を細かく示唆しつつ、自衛官らの組み合いは案内してきた自衛官の勝利で終わった。
「如何でしたか? こういう努力を我々は長い期間積み重ねてきました。ゆえに我々は上位探索者を名乗れるのです。早道など何処にもありません。無論、条件だのアイテムだのも。現実のダンジョンはゲームとは違うのです。ドラゴン様が聞いたら、ブレスで焼かれますよ」
微笑む自衛官に、にわか探索者らは言葉もない。恥ずかしくて逃げ出したい気分だった。
ちなみに後日。彼等の悪態から全て録画、配信されていた事を知り、にわか探索者達は社会的に晒し者とされるオチまで用意されていた。
もちろん、次に続く勇者はおらず、ダンジョンの平穏は自衛官らによって今日も守られている。
「神埼さん、至急薬が欲しいっ、ストレプトマイシンだっけか? ペストの薬っ!」
いや、貴女たしか異世界に渡りましたよね?
自分の執務室にいきなり現れた幼女に、神埼は眼を皿のように見開き、肩に止まる逆鱗様に視線で尋ねた。
『こやつのみ世界を渡れるのよ。神々の御業、神域を所持しておるでな』
淡々と呟かれる爆弾発言。
そんなん有りかよ。脳内で反論しつつも、神埼は久々に見る幼女に微笑んだ。
「ストレプトマイシンですか。また懐かしい薬ですね。今はもっと簡単な治療薬があります。用意させましょう」
理由はどうあれ、異世界側の地球人達とコンタクトが取れるのは僥幸である。
事の経緯を詳しく聞きつつ、神埼は相変わらずなオカンクオリティに頬をひきつらせた。
街起こしして、難民救済して、権力者に喧嘩売ったと。.....草部は何してるんだ。
でもまあ、話を聞けば致し方無くもある。日本人なら看過出来ない状況だ。
頭を抱えて転げ回る草部が脳裏に浮かぶ。
何より、この幼女を止めるなど、ドラゴンにも女神様にも不可能だろう。
この一件から、神埼の執務室には度々幼女がやって来るようになった。
「神埼さーんっ、総理に相談あるんだけどさーっ」
勘弁してくれ。
思わず両手で顔をおおい、来る度にレベルアップしていく幼女の要求に恐れ戦く神埼である。
足りない物は地球世界から♪
要領良く世界をまたぐオカンであったww
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