第6話 side・地球 ~後編~


日本は知り得た情報、全てを開示した。


 魔法陣の向こうにはダンジョンがあり、魔法陣を通じて、こちらと行き来が可能な事。ダンジョンにはモンスターが蔓延り、スタンピードというモンスターによる災害が起きる可能性がある事。ダンジョンでは、こちらの文明の利器のほとんどが使用不可能な事。


 世界は上を下への大騒ぎとなる。




 ☆名もなき冒険者酒場


☆ここは情報交換の場です。特定の個人や物事についての誹謗中傷はお控えください。


1・名もなき冒険者

 テレビやネットがすごい事なってる。あれ本物?


2・名もなき冒険者

 世界中だぞ? あれだけの規模でイカサマだとしたら、どんだけ金かけとるんだよとww


3・名もなき冒険者

 警察官痛そうだったな。満身創痍。お疲れ様です。


4・名もなき冒険者

 本ソレ。ありがとうございます。


5・名もなき冒険者

 マジもんのホーンラビットとか。ラノベの世界じゃ見慣れてたが、リアル怖い。マジ怖い。


6・名もなき冒険者

 スライムもだぞ。某愛されキャラクターと違いすぎ。あんなグロいの出てきたら、俺なら泣く。


7・名もなき冒険者

 謎の塔から出てきたんでしょ? あれやっぱ異世界の入り口?


8・名もなき冒険者

 どうなんだろうな。だとしたら、すげぇ。ラノベの世界みたいに探索者とか出来るんかな。


9・名もなき冒険者

 うおおおっ、俺はなるぞ、探索者!!


10・名もなき冒険者

 もちつけww


11・名もなき冒険者

 まぁ、気持ちはわかるw


12・名もなき冒険者

 俺もなりたいw


13・名もなき冒険者

 だなw 脳内妄想が現実になった訳だしww


14・名もなき冒険者

 ちょっと待て。ネットニュースに、今回の事出てる。


15・名もなき冒険者

 ダンジョン? 例の魔法陣の向こうはモンスターのいるダンジョンだった? スタンピードの可能性??


16・名もなき冒険者

 ちょっwwww なんで政府の公式見解にラノベ用語使われてるしwwwww


17・名もなき冒険者

 関係者に同胞がいる可能性についてw


18・名もなき冒険者

 周知しやすい言葉を選んだんだろ。オタクは何処にでもいる。そう、貴方の心の中にも。


19・名もなき冒険者

 ぶはっ、精神汚染いくないww 確かに知ってる人間なら一発で理解するし、説明も出来る。政府の教本にラノベが導入されそうwww


20・名もなき冒険者

 でもスタンピードはヤバい。俺の家、ダンジョンに近いんだ。避難すべきか。


21・名もなき冒険者

 そうなるみたい。ダンジョン周辺に避難勧告でるって。で、今後は周囲に壁を作りたいって話になってる。


22・名もなき冒険者

 まぁ、そうなるわなぁ。


23・名もなき冒険者

 えー、私んとこもダンジョン近い。引っ越しかな? やだな


24・名もなき冒険者

 安全には代えられないべ。むしろダンジョンを恐れて、民族大移動な悪寒ww


25・名もなき冒険者

 あーありうる。政府が喜んで土地を買ってくれそうw


26・名もなき冒険者

 地上げが頻発しそうだな。転売屋が絶対湧きだすなw


27・名もなき冒険者

 異世界か。行きてぇ....


 28・名もなき冒険者

 同感




 今回の日本の発表により、各地のダンジョンの調査と厳重な管理が世界中で行われ、一部をのぞき全てのダンジョンが政府の管理下に置かれる事となる。




「よっと」


 ざしゅっと音をたてて、狼が切り裂かれた。

 途端、狼が消え失せ、毛皮と小さな黄色い石が音をたてて床に落ちる。ダンジョンでモンスターを倒すと、アイテムだけが残るのだ。男は石を拾い、腰の小さな鞄に入れた。


 水晶のように透明な石。


 地上で倒されたモンスターは消える事なく、それを解剖した結果、姿形以外は地球の生き物とさほど変わらない事が判明した、

 ただ一つ違ったのは、心臓に張り付くように存在する透明な石。今はコレを魔石と呼んでいる。勿論、ラノベからの抜粋。

 不思議な輝きを放つその石は、研究の結果、地球でいう電池のような役割を持つ事が解り、更なる研究が進んでいる。

 地球では使えずダンジョンでのみ使えるのだが、日本が現地で魔改造した結果、多くの電化製品がダンジョンでも使用可能となった。


 今、日本のダンジョンでは、機動隊を含む自衛隊達がセーフティエリア周辺に拠点を築き、探索と研究を行っている。

 更にダンジョンを深く探索するには多くの魔石が必要だった。

 隊員達は魔石を得るために、せっせとモンスターを狩っていく。モンスターを倒す事はスタンピードの予防にもなる。 


 今回の事案の後、当事者であった機動隊達の協力を仰ぎ、自衛隊はダンジョンに挑んだ。

 セーフティエリア周辺にはモンスターが溢れており、これが地上に出るのかと、モンスター初見の自衛隊は揃って固唾を呑む。


 「見ててください」


 そう言ったのは機動隊員、草部くさかべあつし。前回、ホーンラビットと呟いた青年である。

 何事かと凝視する人々の目の前で、いきなり数匹のモンスターが消えた。


「今消えたモンスターは地上です。放置していたら、次々とモンスターが地上に溢れるでしょう」


 淡々と呟くのは、前回スライムを倒した青年、木之本きのもとけい。 

 絶句する自衛隊員を一瞥し、二人は前に進み出る。


「溢れたモンスターは人を襲います。だから狩ります。害獣駆除です」


 薄暗く湿ったダンジョン。初めて見るモンスター達の姿。それらに気圧され、唖然としていた自衛隊員達だが、害獣駆除という耳慣れた言葉で我に返る。

 国民の安全を守るのは彼等の仕事。人々に害為す生き物を駆除するのに何の躊躇いがあろうか。


 護国の先鋒である矜持きょうじが、未知のダンジョン、未知のモンスターへの恐怖を消し去った。


 そこからの展開は早い。各々手にした得物でモンスター達を駆逐し、人間達は数の暴力にモノを言わせて前線を奥に広げた。

 そうして確保した空間に仕切りを作り、モンスター討伐班の生活空間が出来上がる。

 拠点が出来れば、あとは職人達の出番である。

 魔法陣周辺の広い空間には、あっという間に各種研究班のスペースや、炊事場、仮眠場など、必要な物が次々と作られ、人の暮らせる仮設砦が完成した。


 謎の塔周辺も整備され始めたので、生活は外でも良いのだが、ある事実からダンジョン内で生活する事を望む者が続出したため今の状態となった。

 その事情とは魔力の増加。地球人の持たぬ魔力。これがダンジョンに潜っている間だけ増加する事に、ある人間が気づいたのである。


 何故、気づいたか。それは前回のスタンピード間際を防いだ機動隊。彼等はダンジョンに入り、幾らかの討伐をしていた。

 自衛隊達と再びダンジョンに突入するさい、彼等には僅かながら魔力が増えていた。

 そしてダンジョン内ですごすと、少しずつ魔力が育つ事が判明したのだ。


 何故それらが判明したのか。


 前回、二人の若者が得た称号、《地球のダンジョンに初めて足を踏み入れし者》、この称号の報酬が《鑑定》だったからである。


 彼等は再びダンジョンに足を踏み入れた時、目の前の光景に眼を見張った。見る物すべてにステータス表示がされていたからだ。


 二人は顔を見合せ、瞬時に覚った。これが称号の効果なのだと。


 ダンジョン内でしか使えないようだが、脳内でオンオフ可能。黙っている訳にはいかず、彼等は上へ報告した。


 ステータス表示はともかく、問題は魔力だ。


 真っ当に考えるなら魔法が使える事態が起きる可能性が高い。自覚なく惨事に至る事も考えられる。秘匿ひとくは悪手だ。


 世界に公表するべきと、二人は自分達に起きた事も含め、予測される事態の詳細を添えて上に上申した。


 結果、ダンジョン暮らしを望む者が急増する。


 魔力である。魔法である。


 夢見がちな男どもの冒険心に火を点けるのは容易かった。




「魔力は増えたけど、魔法は全く生えないな」


「何か条件があるんだろう。レベルはあがってるし、じっくりやろうや」


 彼等は斧を片手に、ダンジョンを進んでいた。

 探索は二人でバディを組む。当然のように草部と木之本はバディを組んでいた。

 《鑑定》を持つ二人は分けるべきという主張もあったが、むしろ足手まといになりかねない人間と組ませる方が危険と上は判断した。

 貴重な《鑑定》を持つ二人は、独自に本能の赴くままに探索した方が良いと、かなりの権限も与えられている。

 不思議物語に関心の高い彼等は、通常の隊員と発想や着眼点が違う。これを生かさない手はない。


 上の判断に感謝し、二人は思い思い好きな事に精を出していた。


 今はレベル上げ。初めて聞いた脳裏流れるレベルアップの言葉の感動はいまだに忘れられない。


「しかし、長いよな。次のレベルアップはいつだろう」


 うんざりといった木之本の言葉に、草部は苦笑いを浮かべる。


「かれこれ千匹くらいは倒したかな。それでレベル3。単に、ここのモンスターのレベルが低すぎて経験値がショボいのかもな」


 実際、ここのモンスターは慣れれば一撃で倒せる。チュートリアル的なモンスターではないかと、木之本も考えていた。

 ゆえに二人はレベル上げをかねてダンジョンを散策し、マップ制作中。上手くいけば、次の階層への入り口が見つかるかもしれない。

 今より実入りの良いモンスターが欲しい。二人の思考は、すでに機動隊員ではなく探索者になっていた。




「あれ? 火が出ない」


 一旦休憩しようと少し下がったセーフティエリア。この階層には一定間隔でセーフティエリアが存在し、ここ数ヶ月で複数見つかっていた。

 その一つに腰をすえ、携帯燃料で湯を沸かそうとした草部が、配給の魔石制チャカッカマンを手に、カチカチやっている。


「マジか。俺、腹ペコなんだけど」


 一応火打ち石なる物もあるが、化学燃料を使わない物なら火を起こせるため使われた事はない。

 ファイアーピストンなどである。


「まいったな、火打ち石しか無ぇww」


「ふざけんな、何でセラミックマッチくらい持って来ないんだw」


 人間、便利な物には依存する。チャカッカマンがあるのに、ワンクッション必要なピストンやマッチなど使うはずがない。

 草部が火打ち石をもっていたのは、単に物珍しさから購入して忘れていただけである。


「つかないかな」


「成功してる人は見たことないな」


 苦笑する草部が、湯を諦めたようにチョコバーをかじっていた。


 火が欲しい。カップ麺食いたい。


 木之本は、そう思いつつ火打ち石にトライした。

 携帯燃料の上に火種になるよう細かく裂いてクシャクシャにしたメモ用紙を乗せ、何度も火打ち石を打ち付ける。

 何度か空振ったあと、火を望む木之本の脳裏にシグナルが走った。


《火の精霊支援小を獲得しました》


「え?」


 呆ける木之本は、不思議そうに顔をあげる。


「どした?」


 訝る草部に曖昧な返事を返し、木之本は再び火打ち石に挑戦した。成功する気がする。

 懲りずに挑戦する木之本を眺めながら、草部は、ぞわっと鳥肌のたつ不可思議な感覚に襲われた。


 なんだ?これ?


 周囲に眼に見えない何かがいる。


 辺りを見渡す草部の前で、木之本は火を着けた。火打ち石から起きたとは思えない激しい火花が散り、あっという間に携帯燃料が燃えあがる。


《地球のダンジョンで初めて精霊と通じし者を確認しました。称号が与えられます》


 求める心。望む気持ちに精霊は応える。


 ここに地球初の魔法使いが誕生した。(千早を除く)

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