第7話



 翌のショッピングの日。

 ショッピングだけの予定なので着飾らず動きやすい格好を選び、外へと出る。

 家の中と外の温度差にやられそうで、家に帰りたいという気持ちで溢れた。けど、折角のあおいとのショッピングなので、なんとか気を持ち待ち合わせ場所まで向かう。


「あ、おーい!葵ー!」


 いつも以上に可愛らしい格好の葵。こういう都心に出る時の葵って物凄く可愛い女の子になるんだよなぁ。


「お待たせ、待った?」


「ううん、今来たとこ」


 カップルのような会話をしては、お互いに吹き出し変わらない光景に胸を踊らせる。

 颯爽とショッピングモールの中へと入っていき色々なお店を見て回ることになった。


「あ、このお洋服屋さん私結構すきなのー!」


 ガーリーなファンシーな、ザ・葵という感じの服屋にとことこ向かう葵。

 その姿も大変愛らしく、自慢したくなってしまう。


「葵、この服とか似合うんじゃない?」


 ショーウィンドウに飾られている服を指さすと葵はパァっと明るくなり、後先考えずに購入していた。

 まさか、私が似合うんじゃ?って言っただけで買うなんて…。こんなこと、前にはなかったことで少しだけ焦る。


「む、無理に買わなくて良かったんじゃない?」


「ふふふ、いいのー。なぎが似合いそうって言ったものは私似合うもんー」


 何の曇りもない綺麗な言葉で言われるものだから、私の胸はぎゅぅっと握られる。

 それでも今この楽しい瞬間に頬は緩み、楽しく笑って葵の隣を歩く。


向坂さきさか……さん?」


 突然後ろから声をかけられゆっくりと振り返ると、そこには未来の旦那のみなとが他の友人達と共にいた。

 若かりし頃の水を見ては若いな、なんて考えて思考回路が脱線する。

 言葉を発しようとすると、葵に服の裾をきゅっと握られ、その行動から水と会話をするなと伝わってくる。

 今は葵の気持ちを汲み、会釈だけでその場を後にする。

 ………そういえば、こんなところで水になんて出会わなかったはず…?私の記憶が疎かなのか、はたまた過去が改変されているのか、知る由もない。





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 目的の浴衣を購入の前にランチをしようと、ショッピングモールにあるフードコートで小休憩をとることに。


「いっぱい見たねぇ、この後の浴衣も楽しみー!」


 先程水と会った時と態度は大幅に変わり、朝みたいに楽しそうに鼻歌まで交じっている。

 葵の機嫌の良さに胸を撫で下ろし、お昼に何を食そうかの話題へと方向転換していた。


「私はねー、ジャンクなものが食べたいなぁ、凪はー?」


 フードコートに並んでいる店を一瞥し、葵の言う『ジャンクなもの』があるかを探す。

 大手ハンバーガーのチェーン店が並んでいるのを見つけて、葵とそれにすることに決め店へと向かう。葵に荷物を預けて。


「えっと、葵はチーズバーガーで私は……テリヤキバーガーっと」


 事前にメニューに目を通し注文するものを頭に入れてから列になっている最後尾へと並ぶ。

 並びながらぼうっとフードコートにいる人たちを眺める。

 今更ながらここは本当に過去の、中学二年生の時代。身体も若々しく成長途中なのが見て取れる。

 それでも、一際美しさを放つ葵にあの子は異次元だとも思わせられる。


「向坂さん、あの…」


 並んでいると、横から水に声をかけられる。

 先程は葵が話すのを拒んだために若干、無視をした所があった。

 一応は未来の旦那様にあたる人物なのでちょっとここで会話をしておこう。


「久しぶりだね、みな……じゃなくて日向ひなたくん」


 危うく下の名前で呼ぶ所であった。中学生の間、というか付き合うまではずっと苗字で水の事を呼んでいたので、慣れは怖いなと実感した。


「さっきは、その…向日むこうさんが居たのに話しかけちゃってごめん」


 水も葵に嫌われているのを理解しているようで本当に申し訳なさそうに謝る。

 別に水が謝ることでは無いけれど、葵の機嫌を損ねれば面倒なことが起こることは水自身も分かっているようだった。


「いいよ、大丈夫」


 レジが私の番になるまで、水と他愛ない話を交わす。

 実際、結婚した時も水のことが好きだったかと聞かれれば嫌いではない。でも、恋愛対象としては見ていなかったな、と考える。

 なら、私が好きだった恋愛対象だった人は一体誰なんだろう。

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