第6話
何事もなく終業式も終わり、葵と共に帰路に着く。
何時までも夢のような感覚で、私はふわふわとしていた。
「どうしたのぉ、凪?今日ずーっと変だよ?」
顔を覗かれビクッと肩を跳ねさせる。
久々にまじまじと見た葵の整った顔。目頭が熱くなるのを感じる。
「なん、でもないよ」
「ふーん?あ、ねぇねぇ!前に言ってた事、覚えてる?」
段々と、会話したことのある光景だということを思い出す。
確か、明日から夏休みなので毎日一緒に居ようってことの確認だったはず。
「うん、覚えてるよ。毎日一緒に居ようって」
そう言うと葵はキラキラと満面の笑みでうん!と首を縦に振る。
ルンルンと軽快な音が聴こえてきそうなくらい、スキップをして私の数歩先を歩く。
そうして、ふと気付く。
あの最悪な日、夏休み明けに葵が放った言葉。
『夏休みを通して気付いたこと』
………それは、一体何なのだろう。私を好き、だという事に気付いただけなのだろうか?
そうして、私はその葵の言葉の返事を出せていなかったな。
あぁでも、嫌いとも言われたな。
葵を見ていないから、と。
「ほらー、凪ー!早くいくよぉー!」
数歩先からひらひらと手を振る葵。
今はとにかくもう一度この時間を、葵と一緒に歩もう。
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夏休み初日、この日は夏休み後半に課題を集中させない為にさっさとやってしまおうと、葵が計画を立てた。
初日は私の家で課題尽くしとなる。
「いらっしゃい葵」
はーい、と無邪気に笑いクーラーの効いたダイニングへと二人でやってくる。
テレビ前に置いてある大きめのテーブルに色々な課題を並べては二人で教え合い問題を解いていく。
「これ終わったらさー夏休みに何をするか決めよーよ!何せ一ヶ月以上あるんだから!」
にひひ、と今にも悪巧みをしそうな悪どい笑顔で笑う葵。私もそのノリに乗っかり何をしでかそうかと計画を話す。
あぁ、楽しい。やっぱり葵といる時間が一番楽しくて、大好きだ。
「そういえば、来週花火大会あるらしいよぉ?」
数学の問題をすらすらと解いている葵がぽつりと呟く。
花火大会、そういえば行ったなぁ。
「ねねね、二人で浴衣着ていこーよ!」
勿論、即答でイエスと答える。
そうして私がお揃いの浴衣を買おうと、提案をし、明日はショッピングの日となった。
人生二度目の中学二年の夏の課題をイヤイヤになる前に終わらせ、明日の葵とのショッピングに胸を膨らませる。
「浴衣、何柄がいいかな?凪には金魚とか似合いそう!」
ノートの隅に可愛らしい金魚の絵を描く葵。
お揃い、って提案していたのに葵は私に似合いそうな柄を続々と提案してくる。
確か結局柄は赤い菊の柄になったような。
葵が花言葉が好きだとかなんだとか…。
「ねえ、葵。赤い菊の花言葉って何?」
前回は気にも留めなかった花言葉。
きっと永遠の友情とかそんなのがついているはず。
「……花言葉は諸説あるから、まあ私の知ってる花言葉は…『あなたを愛しています』かな」
あの踏切で見た虚ろな目をする葵。
咄嗟に葵を抱き締め、恐怖を薙ぎ払う。
「ちょ、なにぃ!?凪ー!」
わたわたと焦りを見せ、背中を優しく叩く葵。
声色が先程と違うことに胸を撫で下ろす。
ゆっくりと葵から離れると、葵の顔は真っ赤に染まっていた。
「ご、ごめん、暑かった…よね」
「………ぅん」
ふわふわの前髪をくるくると弄り、赤いままの顔はそっぽを向いた。
その表情に、とくんとくんと心臓の高鳴りを感じたが恐怖からの鼓動だということにし、その日はお開きとなった。
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