第4話



 それは、夏休みが終わり新学期の初日。

 私は、夏休みに入ってから本当に毎日一緒だった葵のことを考えながら学校へと向かっていた。

 その途中には、踏切がありいつもその近くであおいと待ち合わせをし学校へと向かう。…機嫌がいい時だけ。

 その日も、特に何もないから普通に、普通に向かっていた。

 まだ暑い暑い日差しが降り注ぐ中、葵が虚ろな目で踏切の前に立っていた。


「あ、葵!おはよ………?」


 何時もと様子がおかしいのは見てわかった。

 何かが変。まるで、保健室で手首を切った時の様な、違和感。

 つま先が冷えるのがわかる。


「おはよう…なぎ


 真っ赤に腫らした瞳で力なく微笑む。

 どうしてだろう、近づけない。


「夏休みを通して気づいたんだぁ」


 動けない私を見透かしてか、こちらに気にもとめずにしゃべり続ける。

 口元が震えて、声が出せない


「私ね、凪が好き」


 予想していた言葉と違いきょとんと目を丸くする。

 でも彼女の雰囲気に冗談を言っているようには見えなかった。


「でもね、嫌いなの、凪が嫌い、私を見てくれないから」


 カンカンカンカンと、ノイズのようにベルの音が頭の中に響く。

 五月蝿い、葵の言葉が聞き取れないじゃないか。


「どうしたらいつも見てくれるかなぁって、考えてたらね、答えがやっと出たの」


 くるりと踵を返し降りた遮断機を潜って線路の中へと入っていく。

 頭では、理解したのだ。今から葵が、死ぬって。


「凪の目の前で私が居なくなれば、ずっとずーっと私を見てくれるでしょ?」


 その笑顔は可愛いわけでも恐いわけでもない、無だった。

 私は十メートル位の平地を全速力で走る。既に電車はすぐ近くだ。

 鞄を放り投げ、靴が片方脱げても葵の元へ走った。

 嫌だ、嫌だよ。やめてよ。






 嫌だ!!!!!!!





「さようなら」












 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





 ────続々とやって来た人たちによって、警察や救急車が呼ばれる。

 私に声をかける人もいるけれど、言葉が入ってこない。

 蝉の鳴き声、サイレンの音……耳に残る、肉の弾ける音。


「…ぅっ………うぇ…えっ…」


 その場で胃の中の物を吐き出し、意識を飛ばした。

 それが、中学二年生九月一日の出来事。

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