【Episode3】キングライノサラス

「何よりもまずは大きいことが

 大事なのだよ」









 世界屈指の金持ちであるマジェーロ氏は、とにかく大きなものが好きだった。

「世界一大きなスターズを作りたいのだよ」

 このプロジェクトも、マジェーロ氏のそんな一言で始まった。


 マジェーロ氏はその巨大なスターズを、自身のスターズ・テーマパークにおいて最大の目玉にしようとしていた。一流のデザイナーが、様々な動物をモチーフにデザインを描き上げた。数あるデザインからマジェーロ氏が選んだのはサイをモデルにしたスターズだった。それはどこかマジェーロ氏に似ていなくもなかった。

 

 開発はスタートしたが、プロジェクトチームはすぐにある問題に直面した。この巨大なスターズを動かすためには、並のスターバッテリーではすぐにエネルギー不足になってしまうのだ。

 取締役会議で大多数の役員は有線エネルギー供給式に切り替えることを提案したが、マジェーロ氏はそれを却下した。せっかくのスターズに線がつながっていては、テーマパークに来た子どもたちの感動は半減してしまう。彼は単独で動き回れるスターズを作りたかったのだ。


「マザースターを使えばよかろうよ」


 役員たちはこう言い放ったマジェーロ氏の太っ腹さにあきれた。貴重なマザースターを、たった一体のスターズのエネルギー供給に使うなど、信じられないことだった。マザースターが一つあれば、シティ一つ分のエネルギーを供給することすら可能なのだ。

 だが、マジェーロ氏は自慢のひげをつまみながらニヤリと笑ってこういった。

「だからきみたちは小金持ちにしかなれないのだよ」


 しかし、マジェーロ氏が自身の人生の集大成と位置付けたそのテーマパークは、一般に公開されることはなかった。オープンのわずか一週間前、『別れの日』に生じた『白い穴』は、会議を行っていたマジェーロ氏と主要なスタッフをその巨大な自社ビルごと飲み込んだからだった。テーマパークは都市郊外にあったため難を逃れたが、それを運営できる者は誰一人この地上に残っていなかった。残されたスターズたちは、無人のテーマパークでプログラムされた動きを延々と繰り返した。


『別れの日』から一年がたち、二年がたち、ほとんどのスターズのバッテリーはとうに切れ、テーマパークに響くのは風と木々の揺れる音だけだった。


 それが起こったのは、美しく月の輝く夜のことだった。

 

 テーマパークからひとつの巨大な影が動き出した。それはマジェーロ氏が思いをかけた、マザースターを搭載したあのスターズだった。

 王の名を冠したそのスターズは、ほかのスターズやテーマパークの施設を踏み潰しながら、悠然と、そして堂々と、荒廃した大地へ歩を進めた。それはさながら、古代の恐竜の王が大地を闊歩するかのようであった。


 王の名を冠したスターズがどこへ向かったのかは誰にもわからないし、そもそもなぜそれが突然動き出したのかもわからない。

 わかっているのは、無限のエネルギーを得た我らが『キングライノサラス』は、その動線上にあるあらゆるものを蹂躙し、肉体が朽ちる日までその歩みを止めることはないだろう、ということだ。

 もしもマジェーロ氏が存命していたならば、その勇姿を見て満面の笑みを浮かべたことだろう。そしてその自慢のひげをつまみながらこういったことだろう。

「ワタシはこれが見たかったのだよ」


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