第2話 チョコレートバー



「ムシャムシャ」


研一は重苦しい気分でサンドイッチをほおばった。

あまり味を感じなかった。


「・・マズイ事になったな」


さっきの事を思い出すと憂鬱ゆううつな気持ちになった。


「あの女子生徒。どうやってココを見つけたんだ ? 」


呟いてから自分の言葉が可笑おかしくなった。

自分が見つけられたのだから、他の生徒が見つけても不思議では無い。


「問題は」


そう。

あの少女は何の意図いとがあって、あそこに居たのか ?

それが問題だった。

お昼休みと言う学生にとっては貴重な時間に何であんな所に ?

しかも、たった1人で。

それに自分が近づいても驚いた様子は無かった。

それどころか、自分を待っていたようにも感じられた。

考える程に謎は深まるばかりだ。


「あの子と少し話をしておくべきだったかな」


今更になって後悔の念が湧いてきた。

さっきは自分だけの秘密の場所だと思っていた場所に他人が居た事に不快感を感じてしまった。

ここは僕の所有地では無いのだから、誰が入ってこようと文句を言う筋合いでは無い。

それに、あの子の態度が気になった。

あの子は、何らかの理由で僕と話をしたかったのかも知れない。

それは、あの子の瞳からも感じられた。


「もう1つの問題は」


こちらの方が僕にとっては重要だった。


「あの子はこの場所の事を教師や他の生徒にしゃべるかも知れない」


そうなれば全てはアウトだ。

もう、ここへは来れなくだろう。

少なくとも、僕が1人になれる場所は無くなると言う事だ。


「そうなったら、また1人になれる場所を探さなきゃいけないな」


しかし何故か、あの子はこの場所の事を誰にも喋らないと思う気持ちもあった。

あの子はあの子なりに、この場所を必要としているのでは無いのだろうか。

それなら、ここへ来れなくなるのはあの子にとっても不都合ふつごうな筈だ。

勿論もちろん、これは僕の憶測に過ぎないのだけれど。


「でも、さっきの僕の対応を見たらもう来ないかも知れないな」


僕は彼女を無視したのだ。


この事で彼女はかなりの不快感を持ったに違いない。

腹いせに、この場所の事を教師に話すかも知れない。


「もう、いいや。なるようになれだ」


僕が1人であれこれと考えていても事態が好転する訳でも無い。




研一はスマホを取り出して時間を確認した。

昼休みが終わるまであと15分しか無い。

校内でのスマホの使用は禁じられていたが持ち物検査をするような事はしない。

ある意味、大らかな校風だ。


彼は校舎への帰路を歩き出した。

途中でクヌギの樹の所で立ち止まった。

女子生徒はいなかった。

女の子の脚力ではもう校舎へ戻らなければ昼休みが終わってしまう。


「まあ、当然だよな。あれ ? 」


研一はクヌギの樹の根元に何か置いてあるのを発見した。


それはチョコレートバーだった。

その下にメモ用紙が折りたたんで置いてある。

研一はメモ用紙を広げてみた。

そこには次のような事が書かれていた。



勝手に入ってきてごめんなさい

明日もここへ来ていいですか ?



その文字は女の子らしい細い文字だったが、

その筆跡からは強い意志のようなものが感じられた。






つづく




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