Episode:24.5 Determination

「なんで…?どこ……?どうして………?」


 モナの心には余裕がなかった。決意を新たにした瞬間、自分の体が作り変えられるのを感じた。そして目が覚めると、毒の影響は消え去っていた。ローズにも同じような現象が起こったらしい。動けるようになった二人は、その意見を合致させる。すなわち、ご主人様の助太刀にに行こう、と。そして、カリストと共に全力疾走し、竜がいたであろう場所まで戻ってきた。そして、破壊の限りを尽くされた、ただの草原を目にしたのである。そこには、彼女らの主人の姿も、竜の姿もなかった。いるはずの場所にその姿がない。その事実は、まるでゼロが世界から消えたように錯覚させた。


「………そうか…。」 


 ローズにとって、主人は決して最強ではなかった。事実、モナと協力すれば、主人を打倒できるという自負があった。

 ローズにとって、主人は不死なのではないかと思えるほどの存在だった。モナと二人で協力すれば、主人を追い込めるという自信はあっても、命のやり取りであれば、負けるのは自分たちだろうという確信があった。主人の再生能力は、いまだにその底を見せないのだから。

 ゆえに、この場にゼロがいなかったことを知りつつも、彼の生存を信じることができた。彼の実力では勝てなかったのかもしれない。しかし、彼にとってそれは死と同義ではない。それが、ローズを冷静に保つ命綱だった。


「モナ。」

「………?」

「ご主人様は、決して無敵ではない。我らでも均衡した勝負が可能なのだから。それは知っているだろう?」

「何よ!ご主人様が死んだというのなら、いくらローズでも許さないわよ!!」

「落ち着け。ご主人様は無敵ではないが、不死と言っていいほどの生命力があるだろう?だからこそ、思うのだ。ご主人様は竜に負けたのかもしれないが、死んだわけではないだろう、と。最もご主人様のことを知っているわれらであっても、その姿を想像できないのだから。」

「……そう、そうね。うん、ありがとう。確かに、負ける姿は想像できるのに、死ぬ姿だけは想像できないわ。」

「そうだろう?ならば我々のすべきことは、強くなること。そしてご主人様を探すこと、だろう?」

「そうね。あなたの言うとおりだわ。」

「この場所に、ご主人様が帰ってくる可能性もある。簡単なサインを残しておこう。」


 ローズの言うサインとは、モナの魔術のことである。ローズの魔術を応用し、ゼロの魔力の身に反応して待機を振動させる魔術、いうなれば録音と再生に似たことが可能なのだ。ちなみに、この魔術ことを、ゼロは知らない。万が一のため、伝えておくべきだったと思うが、こんな状況は想定外だったのだ。いずれゼロを驚かせようと、内緒にしていたのが仇となった。


 こうして、自分たちの安全と、あなたを探す旅に出るということを残したのち、二人は次の街に旅立つ。

 二人と一匹の旅は、主が欠けたことによってその目的を変容させた。主を探すこと、そしてもう二度と、同じことが起きないように、強くなること。進化を果たした二人。もとより国難級の魔獣が一匹。人の社会では、すでに十分な強者である。

 ゼロに対する思いは、三者三様。しかしその強さは等しく、強い。こうして、人外が化物へと至るたびが幕を開けた。

 

 もはや、彼女らにとってゼロの生存は確定した事実となっている。それが彼女らの精神の安全装置だったのか、ゼロへの信頼のなせる業だったのかは誰にもわからぬこと。そして同時にどうでもいいこと。世界にとって重要なことは、この別れが彼女らを強くしたというその一点のみだろう。

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