Episode:6 Rendezvous

 二人と一匹を伴って、組合に向かう。モナとローズは二人ともけっこうな美人だ。大きな熊、男が一人に美女二人。結構注目された。二人は、つい数時間前は人生をあきらめたような眼をしていた。その時でさえ美しかった二人だ。俺に言わせれば、欠損があっても買いの人材だとは思うが、まあ、世間がそろって見る目がなかったことを喜ぼう。


 組合に到着。そのまま裏手の訓練場へ向かう。ほどほどに空いていた。盾と大剣をレンタルして、まずはローズと戦ってみよう。


「ローズ。まずお前だ。まあ、たいていのことでは俺は死なない。殺す気で来い。」

「了解した。」


 言うが早いか、ローズは俺との間合いを詰める。俺は体術使いだから、大剣の間合いよりもさらに接近しなければならない。が、盾を上手に使い、俺との間合いを適切に保つ。大剣を躱すこと自体は造作もない。が、レンタル用の盾を壊すわけにもいかない。試験の時とは違うのだ。となると、取れる手段は限られてくる。手首を狙うか、速度を上げるか。しかしまずはこの手段を試そう。


 大剣を躱し、接近を試みる。ローズは盾を上手く使い、俺を押し返そうとするが、その盾に向かい、衝拳を放つ。盾を持つ手がしびれたようだ。その隙に後ろに回り込み、首に手を当てた。


「終わりだ。」

「くぅ…。やはり強い。当てられる気がしなかった。しかし最後の技は…?」

「あれは、俺がカリストを倒すために考えた技だ。俺は衝拳と呼んでいる。硬い敵にダメージを通すのに有用だ。こういった手段があるから、盾は過度に信用するのはよくない。ちなみにこの程度の装備なら俺は手刀でも切り裂ける。装備によって臨機応変に戦えるようにもしないとな。」

「ああ。しかし私もまだまだ強くなれる気がしてきた。新しい戦い方も模索してみるか。」

「それならば、回避、または受け流しの技術は大切だ。特に対人戦では。個人的には、丈夫な鞘と刀の四刀流とかロマンがあっていいと思うけどな。」

「ふむ。考慮しよう。」


 次はモナとの戦いだ。モナは謙遜していたが、予想以上に動けていた。しかし、どちらも超接近戦だ。同じ間合いでは実力がもろに反映する。ローズの時とは違い、良い攻撃の時は敢えて受け、隙を見つければそこに軽く攻撃。さながら指導戦の様相を呈した戦いは、ローズの体力が切れるまで続いた。


 その後、さっそく刀を二本借りてきたローズと、模擬戦をする。鞘は丈夫である設定で戦ったので、刀と鞘をそれぞれ持って戦った。鞘では逸らす、隙を見てつく。刀では切り、突き、間を見つければ鞘に納めて抜刀。ローズも自分に合っていると感じたのか、その日はその戦い方の訓練ばかりしていた。

 日の入り寸前まで訓練を続けた。ローズは刀を初めて触ったとは思えないレベルの成長を見せていたし、モナも段々良い攻撃が増えてきた。敢えて受けるレベルも少し上げた。衝拳の技術を組み合せることができれば、Aランクくらいの相手といい勝負ができるかもしれない。俺との訓練で対人を、カリストとの訓練で対魔獣を訓練できるのは非常にやりやすい。明日以降訓練を続ければ、優秀な戦闘員になるだろう。そう思える訓練だった。


 宿に戻る。濃密な訓練の後だ。二人とも食事をとるなり眠りについた。俺も、初めてのベッドでの就寝だ。初めてぐっすり眠れるな……。


 起きると、二人ともすでに起床していた。起きたのを確認すると、朝食をもらいに行ってくれた。


「すみません。昨日はご主人様を置いて眠ってしまいました。夜も頑張ろうと思っていましたのに…。」

「いいさ。俺もつかれていたし。しかしそういうことなら、今晩は楽しみにしておこう。」


 そう言うと、モナは赤面してしまった。まんざらでもないようなので、嬉しい限りだ。


 朝食を食べる。今日は、午前中に魔術研究組合に行く予定だ。そこで魔術について習う。最低でも対策を講じられる程度の知識を身に着けたい。午後は臨機応変に。そんな風に予定を伝え、宿を出た。カリストは今日はお留守番だ。


 魔術研究組合に入る。講師を依頼。早くとも午後からになるということなので、午前中は軽く訓練をした。


 午後。運よく講師が見つかったらしい。紹介されたのは初老の男性だった。白髪の混じった髪は、むしろ黒の混じった白髪と言うべきか。しかしその体つき、顔つきはまだ現役の人間であることを感じさせた。


「よろしくお願いします。」

「ふぉふぉ。そんなにかしこまれんでええぞ。契約は基礎を教え終わるまで。報酬は時給1000ゴルドでええかの?」

「ええ。かまいません。」

「では、毎日四時から魔術研究組合に来ること。言伝なしで二日来ない場合、契約は終了じゃ。今日は今から始めよう。構わんか?」

「はい。」

「それでは行こうかの。」


 新しい技術体系。魔術は俺を、また一つ強くしてくれるだろう。成長を実感できる努力は、時に薬物を超える快楽になる。しかし、強くなるための階段を見つけて、ここまでわくわくするとは…。俺ももう、立派な戦闘狂バトルジャンキーだ。



 

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