第6話 追いかけてきたもの


「無力感、恐怖ときて、"憧れ”ですか。あなたも"憧れ"から脱却したのですか?」


「そうだ。史上最高っていうのはね、それを追いかける姿勢と、その過程にこそ意義がある。いざなってしまったら、そこにあるのは空虚な『今の自分』しかいないんだ」


「なるほど。でも、それではあなたのようなスーパーヒーローを目指している人はどうすればいいんですか?彼らもまた、同じように後悔をしてしまうのではありませんか?」


「おいおい、勘違いしないでくれ。僕も、オール師匠も、後悔なんてしたことはないさ」


「後悔とは少し違うものなんですね。ではあなたが"憧れ"に抱いた感情とは何だったのですか?まさか"憎しみ"というわけでもないでしょう?」


「どれでもないよ。答えは『』とでも言うべきかな」


「『呆気なさ』?予想の斜め上ですね」


「古来から、人は『苦難を乗り越える』と言う話が好きだろう?そして、それを乗り越えたものを『英雄』、そして現代では『ヒーロー」と呼ぶんだ。そして、その勇士に誰もが憧れる。僕もその一人だった」


「それで、たくさんの苦難を乗り越えてきたわけですね」


「そうだ。苦難を乗り越える様に憧れて、それを真似し続けてきた。その果てに、『キャプテン・グランド』としての自分があったのさ』


「でも、そこに『呆気なさ』を感じたんですか?」


「そうだね。自分では到底届きそうもない理想だからこそ、それを実現する姿に憧れるんだ。でも、実際に達成してしまったら、もう何にも憧れを感じなくなってしまった」


「憧れを感じない、ですか。それはそれで寂しいものですね」


「そうだね。まだまだこの世界は完璧なものではないし、僕にも未練はあった。でも、憧れを無くした僕は今の自分以上を望めなくなってしまった。僕は


「ようやく分かってきましたよ、あなたがヒーローをやめた理由。一番最初、あなたは『モチベーション』とおっしゃっていましたね」


「そうだね」


「あなたがいうモチベーションとは、我々で言う『やる気』なんてものじゃない。

自分の夢・憧れ・志といかに向き合えるかだった」


「そんな大層なものでもないけどね」


「そして、あなたは無力感と言う名の恐怖と、そして憧れを持ってしまった故の、

喪失感とでも言うんでしょうか。それによって自分の思いに向き合えなくなってしまった」


「ああ、そうさ。そんなことを考え始めた時期に、世界中で怪物の発生数が減少し、世界中のヒーローが暇になり出した。潮時だと思ったよ。『自分の時代は、ここで終わりだ』とね」


「なんか悲しい気もしますが、しっくり来る理由でしたね。聞けて良かったです」



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