第4話 力あるものの無力感
「意外です。『キャプテン・グランド』には怖いものなんてないと思ってましたから」
「これは断言できるけどね、怖いものがない人なんていないよ。誰もが何かに怯えているし、何かを怖がっている。でもそれを打ち払おうと努力するからこそ、そこに人としての輝きが生まれるんだと、僕は思ってるよ」
「あなたは、その恐怖を打ち払おうとしたんですね」
「そうさ。もっともっと強くなろうとした。修行して、かつて苦戦した相手すらすぐに倒せるくらいには強くなった。でも、無力感を振り払うことはできなかったよ。
日々目に入ってくる、モンスターによる被害のニュース。凶悪化した超人による犠牲者。中には、『反キャプテン・グランド』を掲げる凶悪な超人集団による爆破テロなんかもあった。強くなっても、僕は人々の心まで守ることはできなかったんだ。強くなっても、無力であることの恐怖は打ち払えなかった」
「強くなればなるほど、敵も増えるでしょうしね。『キャプテン・グランド』の強さに嫉妬するあまり、凶悪化したヒーローもいたと聞きました」
「ああ、『ブルドーベイ』だったか。脚光を浴びるためだけに、人質を使って、僕との決闘を申し出ていた」
「結局一撃で倒しましたけど……。でも、いくら強くなっても、あなたは一人の人間でしかない。人々の心の支えを求めるのは分かりますが、それをあなた一人に背負わせるのは、あまりにも無茶ではありませんか?」
「そうだね。ちょうど同じ頃、君と同じことを言っていた僕のサポーターがいたんだ。『あなたはもう十分に頑張った。これ以上強くなろうとしないでくれ。あなたが全人類の心まで背負う必要はないんだ』ってね。僕をリラックスさせるために温泉とかにも連れていかれたものだ」
「うわ、めちゃくちゃいい人じゃないですか。僕もそういう上司欲しいなぁ」
「部下にはめちゃくちゃ厳しかったから、それはやめた方がいいね」
「ありゃりゃ……。その人のおかげで、少しはリラックスできたんじゃないですか?」
「確かに、少しは楽になったよ。
『ヒーローは確かに多くの人を助けるべきだが、心まで支えてはいけない。心は自分で守るべきものであり、誰かに背負わせていいものではない。心を他人に支えられている存在は、その実どんな存在よりも脆いんだ』
って僕に説教してくれていたよ」
「めちゃくちゃいい話じゃないですか。それで、『恐怖』は晴れましたか」
「そんなに簡単に振り払えるものではないさ。そこから先も、僕は怖がってばかりだった。日に日に強くなり続ける恐怖に勝つため、自分を研鑽し続けたものだ。このあたりから、僕は恐怖を払うのをやめたよ。恐怖は、常にそこにあるべきだ。恐怖を抱かない人間がどうなったのか、たくさん見てきたからね」
「勉強になります。僕も真実を追い求めるジャーナリストであり続けたいと思っていますが、いつの日か知っちゃいけないことにたどり着くんじゃないかって、まだ明らかになっていない情報に対して、確かに『恐怖』を抱いているかもしれません」
「素晴らしいね。君は大物になれるよ」
「ありがとうございます。僕、褒めてもらってばかりですね」
「話を戻そう。いつまで経っても無力感という恐怖を振り払えなかった僕は、ある人に相談したんだ。
僕の一つ前の『キャプテン』の称号者、『キャプテン・オール』にね」
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