第3話 意外すぎる理由

「モチベーション……ですか」


「どうかな、少しは幻滅したかな」


「いや、幻滅する前に聞きたいことが山ほど増えました。俄然、やる気になるってもんです」


「やれやれ。君はたまにいる、メディア魂純度100%の人間だね。情報に優劣をつけず、ただ純粋に真実を欲している」


「ええ、そうですね。それが自分の取り柄だと思ってます」


「君のような人間を過去に見たことがあるよ。僕が『キャプテン・グランド』だった時に、そんな人に支えてもらった」


「なるほど、親しい知人がいたのですね」


「ああ。君と同じように、NNKの英雄報道局にいたよ。ヒーローに近づいて仕事ができることを、いつも誇らしげに語っていたんだ。彼とは素晴らしい友人になれたよ」


「いい話ですね。ヒーローには、どんな友人ができるんでしょうか?」


「同僚のヒーローはもちろん、関連の仕事をする人たちとかかな。彼らの多くはヒーローに憧れを持っている人たちだから、彼らの方から僕らに話をしにくるんだよ。

みんな、キラキラといい目をしていた」


「ええ。僕も、スーパーヒーロー『デンジャル・キング』に憧れて報道局に入りました。荒々しくも、人々を必ず助けるという優しい姿勢に憧れたんですよね……」


「『デンジャル・キング』か。彼もすごいヒーローだったね。彼の周りは常に称賛の声で溢れていた」


「それを超える『キャプテン・グランド』のあなたが何を言うんですか。あなたには、『デンジャル・キング』の何倍もの人が憧れを抱いたことでしょう」


「ああそうだ。彼らと僕の関係は


「それだけだった、ですか。含みのある言い方ですね」


「君のいう通り、多くの人が僕に憧れを抱いて近づいてきた。そりゃ、彼らのキラキラした目は本物だったし、僕も彼らの期待を裏切らないよう頑張ろうと思えた。僕を支えてくれた人たちもまた、憧れていた人を支えるために一生懸命だった」


「…………」


「でも、この関係はわずか一つの点が崩れるだけで壊れてしまう、とても脆いものなんた。、これが条件だった」


「憧れられる、ですか。それは、難しいでしょうね」


「そうだね。最初はみんな、僕がモンスターを倒すのを見て、そして人を救出するのを見て僕に憧れを抱いたんだ。ただね、僕と関われば関わるほど、必然的に彼らの中の


「段々と、彼らの抱く理想の姿が変化していったんですね」


「そうだね。最初は僕が超パワーで敵を吹き飛ばすのを見ただけでも賞賛されたし、憧れてもらえたんだ。でも、段々と人を助けることも、モンスターを倒すことも、彼らからすれば当たり前のことになっていった。

そうして、段々と助けるべき人数や倒すべきモンスターの強さが上がっていった。相手が強くなると、当然僕もただじゃ済まない。

一回、モンスターに人質を取られて、本当にダメだと思ったことがあったんだけどね。その時もなんとか本気を出して人質を救出し、モンスターも倒せたんだ。けど、人質のうち何人かはPTSD(※)を患ってしまってね。その後の報道で僕の救助責任が問われることになった」


「いくら被害者が出たとはいえ、結果的には犠牲者0で救助を済ませたんです。それで責任を問われるのは、あまりにも理不尽ではありませんか?あなただって、命を賭して戦ったのでしょう?」


「そうだね。でも、世間の『キャプテン・グランド』を見る目は日に日に厳しくなっていった。評論家とかも、『こうすれば被害者を出さずに済んだ』という意見を発表し始めて、僕が全力を出さなかったという声が日増しに増えていったんだ」


「うーん、あんまりです。不快に思ったりはしなかったんですか?」


「いや、思わなかったさ」


「では、なぜこの話を?」


「不快だとか、腹立たしいとかは、本当に微塵たりとも考えていなかったんだ。僕は大きな力を持ったスーパーヒーローで、その力を使って人を助けることは当たり前だと考えていたからね。別に、僕に非難の目を向ける人を嫌いになることはできなかった。

でもね、その時痛感したんだ。僕はもう、『キャプテン・グランド』以下の存在にはなれない、もうこれ以上弱くなれないだってね」


「強くなり続けないと、期待に答えられないから、ですか?」


「違うね。弱くなってしまったら、また被害者を生み出してしまうんじゃないかと

思うとね、怖くなったんだ。僕にとっては凶悪なモンスターよりも、自分が無力だったという事実の方が怖かったんだ。力を持って生まれた僕は、一度たりとも人を十分に助けられなかったことなんてなかったから」




※PTSD=Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害

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