第2話 この社会・そして最強の男


それは、あまりにも唐突な出来事だった。



突如、この世界に人外未知の生命体が現れたのである。

「モンスター」「クリーチャー」等々、様々な呼ばれ方をされたバケモノは地球中に闊歩し、文明を崩壊させんとする勢いであった。


しかし、それに対抗するかのように、人類にも人外未知の力を有した超人が現れた。

「ヒーロー」と呼ばれた彼らは、子供たちが憧れる姿のまま登場し、次々にバケモノ達を駆逐していった。


年月が経つごとに、段々と確認されるヒーローの数も増え、今や一つの街に必ず一人以上はヒーローがいるような社会が到来した。


そうしていくうちに、段々とヒーローの中でも特に際立った活躍をする、世界的な存在が現れる。通常のヒーローと一線を画するその存在は「スーパーヒーロー」と呼ばれ、ただ単にバケモノを退治するだけでなく、通常のヒーローの手に負えない凶悪なバケモノの退治、あるいは悪に染まった超人を打倒するなどの活躍を見せた。


そんなスーパーヒーローの中でも、極めて目立った異色の存在であり、万人から英雄として讃えられた存在がいた。


それこそが「キャプテン・グランド」とされる最強最高のスーパーヒーローであり、本名を篠原良司という男なのである。





___________





「ヒーローを辞めた理由、ねぇ」


「はい、誰もがその理由を知りたがっています。あのキャプテン・グランドが引退したのは、何か壮大な理由があるのだと。今や引退理由に関するフェイクニュースや陰謀論、しまいには『キャプテン・グランドは存在しなかった』なんてものから、実は死んだなんていう無遠慮なものまであります。これじゃあ、真実を知りたい人が浮かばれません」


「いいじゃないか。実は死んだってことにしてくれれば、報道陣が詰めかけてくることがなくなるしね」


「……もしかして、怒ってらっしゃいます?」


「怒ってるわけじゃないさ。ただ、本当なら今日この時間は山にジョギングしにいくつもりだったからね。ルーティンが崩されているんだ」


「それは申し訳ない。引退したスーパーヒーローのジョギング姿だけで上が納得してくれたら、僕もすぐ帰れますね」


「君も大概に怠け者だね」


「よく言われます」


「いいさ。人と話すのは2ヶ月ぶりなんだ。どうせなら、ゆっくりと付き合うよ」


「ありがとうございます。

 ……このお菓子、高いやつですよね。食べていいですか?」


「構わないよ。特に食べる予定もないし、好きにしたまえ」


「やった!

 ……それで、話を戻すんですが、ヒーローを辞めた理由って何ですか?」


「先に言っておくが、がっかりしないでくれよ?されると普通に悲しい」


「なるほど。一般的には幻滅されるような理由なんですね」


「そうだね。自分でもそう思うよ」


「でも、何となくわかりますよ。案外、スーパーヒーローにもスーパーヒーローなりの悩みがありますもんね」


「いや、そうじゃないんだ。別に僕の理由は、そんな特別なものではないよ。多分、誰にでも経験があることだ」


「あれだけ取材渋ってたのに、テンポよく話していただけますね。そんなに僕のことが気に入りましたか?」


「……君は記者らしくないな。上司に怒られないか?」


「あはは、怒られますよ。でも、最後は必ず成果は出すので、問題ないです」


「そうか、優秀なんだな」


「あなたほどではないですよ。あなたは、死人が出てもおかしくない数々の事件を全てで解決した伝説の英雄だ。僕よりもはるかに優秀でしょう」


「そうかい。褒めたところで、これ以上テンポよく話さないぞ。せっかくだから、ゆっくりとするつもりだよ」


「マジですか。僕、定時までには帰りたいです。夜の7時からあるサッカーの試合が見たくて」


「それは、君のインタビュー力次第だな」


「なら頑張らないとですね……。『誰にでも経験があること』とおっしゃいましたが、それは一体何なんでしょうか?」


「君は、サッカーが好きかい?」


「ええ、中学の時から部活で続けてて、今でも休日はフットサルを楽しんでます」


「サッカーで、人に褒められるようなことをしたことはあるか?」


「うーん、ちょっとだけありましたね。カーブシュートが打てるようになった時はめちゃくちゃモテました」


「いいね。では、その経験はあるかい?」


「モチベが下がった経験、ですか。すぐには思いつきませんが……あー、一回だけ、先輩にガチギレされた時は萎えましたね」


「ふむ。ならそれだよ」


「と、言いますと?」


「僕がヒーローをやめたのは、君のそれと同じ理由だよ





単に、モチベーションが続かなかった。それだけなんだ」




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