第39話
「な、なんで…」
クーアがここに飛んできたということは、クーアに転移魔法を使わせるという二人の作戦は成功したようだ。帰ったら二人ともしっかり褒めてやることにしよう。
一方で事態が全く理解できない様子のクーア。それもそのはず、本来なら今頃自宅に転移しているはずなのに、なぜだか俺たちの小屋の前に転移してしまったのだから。
「さて。転移魔法のタネは…これだろ?」
俺はそう言うと同時に、ポケットに隠していた転移水晶を取り出す。
「!?」
信じられない、といった表情を浮かべるクーア。俺はひとつずつ、事態の説明を始めることにする。
「転移魔法っていうのは、どこでも好き勝手に飛べるわけじゃないらしいな?この転移水晶を事前に設置した場所にしか転移できないって話じゃないか」
これもゴミ山で朝までかかって手に入れた情報だ。クーアは何も言わないが、その表情から察するに図星なのだろう。
「だとしたらあとは簡単だ。人間が敵から逃げる先として転移先に選びそうな場所なんて、ひとつしかない」
100人いたなら100人が、その先に自宅を選ぶはずだ。
「…で、でもなんで…隠してたはずなのに…」
そう、そこが俺たちの悩みのタネだった。クーアを尾行することで自宅自体は容易に特定できたが、問題はこの転移水晶の隠し場所。自宅の中に隠されているなら、見つけ出すのは至難の業だろう。…しかし俺は、あえて逆に考えた。
「これは賭けだったが、俺は転移水晶を家の中には置いてはいないだろうと読んだ。靴も履いた外行きの状態で家の中に転移するのは、気持ち的に嫌だと考えるんじゃないかと思ったからな」
「!?」
「そしてその読みは当たり、玄関扉の近くに置かれていた置物の中にこいつは隠されていたよ」
魔法書物に描かれていた転移水晶と性質が完全に一致していたため、これがそうだと確信した。
「…」
逃げることが叶わないことを悟ったクーアは、やや怒りの感情を感じさせる口調で言葉を放った。
「…それで、僕に何の話だよ…キールたちの事を口止めにでも来たのか…?」
俺の予想通り、クーアは俺たちがキール側の人間だと思っているようだ。
「…やっぱり、お前は誤解してるよ。俺たちは決してキールの味方じゃない。むしろ、奴らの悪事を暴いてやろうとしている身だ」
「!?」
「その証拠に…この人」
俺はユキさんの方に手を向け、彼女こそがキールとコザットに鉱石をだまし取られた張本人であることを話した。二人がどれほど苦しい思いをさせられたか、そして彼女の夫がどのような運命をたどったのかも、すべて。
「あ…あな…たが…うう…」
その話を聞いた途端、両目に涙を浮かべるクーア。一体どうしたのかと思ったその瞬間、彼はユキさんに向かって突然両膝を地につけた。
「僕は…ずっと、謝りたくて…僕がキールに話をしてしまったばっかりに…こんな事に…ううう…ご、ごめんなさい…ごめんなさい…」
突然のクーアの謝罪に、俺は言葉に詰まる。俺はゆっくりと視線をユキさんの方に向け、彼女が何と答えるのか、言葉を待った。
「…謝らないでください。あなたが何も悪いことをしていないのは聞いていますし、私には分かります」
「ううう…」
そう、クーアはキール達に巻き込まれただけなのだと考えられる。キールから魔水晶の事を隠されていた事も、キールの不審な点に気づいて記者に情報をリークした事も、俺たちをキールの仲間だと勘違いしていた時のあの態度も、どれをとってもクーアの行動はキール達に敵対的だった。
それでも頭を下げたまま嗚咽を漏らすクーアに、ユキさんが語りかける。
「クーアさん、私たちに力を貸してはいただけませんか?私たちはキールもコザットも許すことができません。けれど、二人の悪事を暴くにはクーアさんの協力が必要なんです…!」
「僕の…協力…?」
俺はユキさんに続き、クーアに言葉をかける。
「コザットを詰めるための最後のカードだ。魔法院の人間である、お前にしか頼めない」
クーアは少しの間俯いたが、再び顔を上げる。その表情は、硬い決意に満ち溢れていた。
「僕は、何をすればいい?」
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