第38話
--ユキ視点--
「二人とも、上手くやってくれるといいんだけど…」
「大丈夫ですよ!あの二人はしっかりしてますから!」
ミリアナさんとテルナさんの二人は例の魔法使いのもとへ向かっていて、今ここには私とツカサさんの二人。ツカサさんの話によると、二人の作戦が上手くいったなら、こちらになにか変化があるらしいのだけれど…
二人で静かにその時を待ちながら、私は在りし日の出来事を思い出していた。
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「どうしてだよ!!あの鉱石を譲ったら店を助けてくれるって、あんたが言ったんじゃないかよ!!」
「うるさい!離しなさい!!」
夫の制止を振り切り、お店から立ち去ろうとするコザット。彼はさらに言葉を続ける。
「あれはあなたたちにはもったいない代物です。私のような者にこそふさわしい。身の丈をきちんとわきまえなさい」
「大体こんな生きているのか死んでいるのかもわからない店、あろうとなかろうと変わらないじゃないですか。思い込みというのは怖いですねえ。何の役にも立たないクズのくせに、自分たちには存在価値があるなどと勘違いをしてしまうわけですから」
…こんな男の言うことを、どうして私たちは信じてしまったのだろう…過去の自分を呪ってやりたくて仕方がない…
しかしそんなコザット相手に、すかさず言葉を返す夫。
「助けてくれないんなら、鉱石全部返してくれよ!!こんな取引やめだ!!」
しかしコザットは冷静に、夫の言葉に反論する。
「今更取り消しなど無効ですよ?はっきりと契約書にサインをしてくださったじゃありませんか。あなたたちが保有する例の鉱石のすべてを、私に譲渡してくだるとね」
「…!?」
「…」
そのあまりにも理不尽な現実に、言葉も出ない私たち。コザットは満足したのか、いよいよ私たちのもとを去っていく。そして去り際に、最後の言葉を小さく吐く。
「…クズが…早く消えてしまいなさい…」
夫が自ら命を絶つ、一週間前の事であった。
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「…ユキさん?大丈夫ですか?」
私に呼びかけるツカサさんの声を聞き、徐々に感覚が現実に戻っていく。
「はい、大丈夫です!」
できる限り笑顔で返事をし、彼に余計な心配をかけないように心がける。私が彼に返事をした、まさにその瞬間の事だった。
「!?…あ、あれ…?な、なんで…?」
突如私たちの前に一人の男性が現れた。眼鏡をかけた彼はものすごく困惑している様子で、周囲をきょろきょろと見まわしている。…そして私もまた、目の前で起きたことに理解が追い付かず、固まってしまう。…しかしツカサさんだけは、不敵な笑みを浮かべていた。
「こんにちは。魔法オタ…いや、魔法院のクーアさん」
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