第36話

--コザット視点--


「支部総長へのご就任、誠におめでとうございます」


 そう言いながら、まるで自分の事のように喜びの表情を浮かべてくれるキール君。


「いやいや、これも全て君が上げてくれたあの情報のおかげだよ」


 例の魔水晶は信じられないほど莫大な金になり、私の出世に大きく貢献してくれた。やはり持つべきものは優秀な部下と金だと実感させられる。


「とんでもございません。すべては、コザットさんのためにやったことであります」


 彼はそう言いながら、私のグラスにお酒を注いでくれる。


「うれしいねえ」


 私はそれを一気に飲み干すと、今度は彼のグラスに注ぎ返す。彼はありがとうございますと言うと、見ていて気持ちのいいほど一気に飲み干した。


「いい飲みっぷりだ。やはり飲むなら君とに限るねえ」


 しかしそんな時、不意に彼が口を開いた。


「…ところでコザットさん、実は少し気になる事が」


 先ほどまでとはうって変わり、なにやら神妙な表情を浮かべる彼。


「ん、なんだね?」


「…実は何やら、我々の事を嗅ぎまわっている者がいるようなのです」


「…誰だ?まさか調査局じゃあるまいな?」


 調査局に目を付けられると非常に厄介だ。奴らは絶大な国家権力を有している上に、私は調査局に全くパイプがないのだ。…しかし、そう懸念をしていた私に発した彼の言葉に、私は心底拍子抜けすることになる。


「いえ、元鉱石商の女とその知り合いの男のようなのですが…」


 なんだ、まったく脅かせてくれる…


「放っておきなさい。そんなクズみたいな連中が集まったところで、何もできはしないでしょう。クズはどれだけ集まっても、所詮はクズなのです」


「し、しかし…」


 それでもどこか不服そうな表情を浮かべる彼を見て、私は話題を変えることにする。


「そんな事より、配属希望は決まったかい?」


 支部総長ともなれば、彼を希望のポストにつけることなど容易も容易だ。


「中央一部?中央二部?それとも外局が望みかな?」


 いずれもそう簡単には入ることのできない、まさに誇り高き崇高な組織だ。


「そ、そうですね…やっぱり中央二部…いや外局も魅力的だな…」


 ほらみたことか。異動先の話題に変えた途端に、ついさっきまでの不安そうな表情は吹き飛んだ。どこに行こうかと脳内で考えを巡らせながら、もはや楽しそうに笑顔を浮かべている。


「まぁ迷うのはわかるけれども、できるだけ早く決めてくださいよ?私にも都合がありますからね」


「は、はいっ!お気遣いいただき、ありがとうございます!」


 彼はすっかり気分を良くしてくれたようだ。せっかくの飲みというのに、神妙な雰囲気では酒も美味しくないというものだ。


「さあ、じゃあ改めて飲もうか」


 さあ、仕切り直しだ。私が支部総長に就任してから最初に飲む酒なのだ。最高のものとしなければ。

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