第35話

「こ、鉱石じゃなくて魔水晶だったなんて…」


 どこか驚いたような、どこか悲しいような、複雑な表情を浮かべるユキさん。


「こ、これはほんとうにそっくりね…」


「はい…言われないと絶対に分からないです…」


 話を聞いていた二人も、困惑を隠せない様子だ。


「だけど、情報が多すぎてこんがらがっちゃうわね…」


 情報過多で今にもオーバーヒートしそうな様子のミリアナを見て、ひとまず現在の状況をまとめてみる。


「話はこうだろう。二人が提出した申請書の鉱石に関する記述を怪しんだキールは、まず魔法院の例の男に相談した。そしてそれがただの鉱石じゃなく、高価な魔水晶である事を見抜いたキールは、中央の元上司であるコザットに話を持ちかけた。そして自らを中央に引き上げてもらう事と引き換えに、魔水晶の情報をコザットに流し、最終的にコザットが二人から魔水晶をだまし取った」


 それなら、一連の出来事のすべてのつじつまが合う。キールとコザットが共犯なのはほぼ確定的だろうが、魔法院の男は果たして共犯なのだろうか?…そこまではまだわからないか…


「じゃあキールが二人への保護給付を拒んだのは、中央が持ち掛ける話に二人を確実に乗らせるためってわけね…」


「ああ。給付が下りてしまったら、二人が取引に応じなくなる可能性があるからな」


「結果的に彼らは、その魔水晶から莫大なお金を手に入れたということですね…」


 これで奴らが何をたくらんだのか、おおかたははっきりしてきた。後は裏を取るわけだが…


「…それで問題は、その魔法院の男を捕まえようがないって事よね…」


 ミリアナの言う通り、そこが何よりの問題だ。何か知っていることは間違いないだろうが、向こうが魔法を使える魔法オタクである以上、奴を捕まえて話をさせるのはかなり厳しい。いくら追ったところで今日のように、転移で逃げられてしまうのがオチだろう。あの男を抑えるには、何か工夫が必要だな…

 その時、それまで話を聞くばかりだったユキさんが口を開いた。


「ほ、本当にすごい…!」


 ユキさんは目を輝かせながら、俺の顔を見つめる。


「私だけじゃ、絶対にそんな事分かりませんでした…でもこれなら、本当に彼らを追い詰められるかもしれない…」


 俺は彼女の言葉を、一か所修正する。


「かもしれない、じゃないですよユキさん。絶対に、地獄に突き落としてやりましょう!」


 俺の言葉により一層の刺激を受けたらしいユキさんは、そのまま俺に言った。


「わ、私にできることはありませんか!?私、もっとお手伝いがしたいです!!」


 そのユキさんの言葉に、ミリアナとテルナも続く。


「お兄さん!私も私も!!」


「ちょ、ちょっと!私を忘れないでってば!!」


 三人の意思を再確認した俺は、早速それぞれに次の作戦を告げた。

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