第33話

「ひ、人がたくさん出てきました…!」


 よし、今が向こうの世界でいうところの定時というわけか。…昼過ぎから張り込んでいた甲斐あって、ようやく目的の人物に話が聞けそうだ。


「テルナ、そいつが出てきたらすぐに教えてくれ」


「はいっ!了解ですっ!」


 今の時間は俺とテルナの二人が担当している。ちなみにこの後も目的人物が姿を現さなければ、ミリアナとユキさんに交代する予定となっている。


「…にしても、何度見ても立派な建物だねぇ…」


 おしゃれな外観の私立大学…とでも表現すれば伝わりやすいだろうか?さすがは王国随一の魔法をつかさどる組織なだけの事はある。…ここの連中は皆魔法が使えるのだろうか?だとしたらいったいどんな魔法が…

 などと考えていた、その時だった。


「ツカサお兄さん!!あの人!あのメガネの人です!!」


 テルナの声を聞き、該当するであろう人物の方へと視線を移す。…言い方は悪いが、冴えない顔に微妙な長髪、加えてお世辞にも似合っているとは言えない眼鏡。…まさに、魔法オタクって感じの男だな…


「よし、行こう」


 テルナを連れ、俺たちは陰から姿を現しその人物の元へと駆け出す。


「ちょっとすみません!」


 後ろから声を上げて、その人物に話しかける。その人物は俺の声に気づいたようで、足を止めて俺たちの方へと振り返った。


「…わ、私ですか?…な、何か用でしょうか…?」


 …この男、声が小さくなかなかに聞き取りづらい…


「突然申し訳ありません。実はキールさんの事でお聞きしたいことが」


 そう、俺がキールの名を口にしたその時だった。


「っ!!!セカンドテレポートッ!!!」


 その男は突如意味の分からない言葉を発した。…次の瞬間には、その男の姿は跡形もなく消えていた。


「な、なんだ!!?」


 俺はとっさに周囲を見回す。しかしその男はおろか、足跡さえも全く発見できない…目の前で起きた信じられない出来事に、ただただ呆然とする俺…そんな俺に、テルナが冷静に言葉を発する。


「ツカサお兄さん、落ち着いてくださいっ!今のはきっと、転移系の魔法です!」


「転移系の…魔法だって!?」


 俺がついさっき考えていたことは、当たっていたのかもしれない。やはり魔法院の人間ともなると、俺の感覚じゃ信じられないような魔法を使えてしまうってわけだ…

 しかし魔法オタクは逃がしてしまったものの、収穫が全くないというわけではない。


「…あの魔法オタク、俺がキールの名前を口にした瞬間逃げやがった。やはり、キールに関して何か知っているのは間違いないな…」


 あの男も今回の一件に関わっていることはこれではっきりした。あとは情報を集めて、あいつの口から直接話を聞くまでだ。今回は取り逃がしてしまったものの、次こそは絶対に逃がしはしない。

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